書棚にある絵本の背表紙はいつも語りかけてきます。「かぜはどこへいくの？」と。松岡享子さんの翻訳書（偕成社）の原書タイトルがこれ。「どこへいくの？」と「止んでしまうとき」このニュアンスの違いにお気づきでしょうか。『かぜはどこへいくの』と“When the wind stops”、この2冊が同じ作者による絵本と思いがたいのは、手がけられたイラストレーションが全く違うからです。翻訳書は鉛筆画ですが、原書は木目にのせたダイナミックな筆遣いが瑞々しく、木のぬくもりが伝わってくるようです。子ども時代の「どうして？」攻撃に、ていねいに愛情たっぷり答える母親の声が今にも聴こえてきそうな安心感があります。終わることは始まることを意味する、何かが終わるときは別の場所で何かが始まりを迎える……ひとつつひとつのメッセージが、生き急ぐ足をふととめてくれる絵本。（か）