期待させられてしまいます。
★★★★☆
この幻冬舎アウトロー文庫のシリーズにおいて、藍川氏は、表紙を日本的情緒溢れる田中修一郎の作品で飾り、その表紙画のイメージを裏切ることの無い非常に高い美意識に裏打ちされた魅惑的な和の空間を作り出し、その美しい空間の中に独自の官能世界を現出させようとしているようです。『源氏物語』を下敷きにした、この『炎』という作品にも作者のそういう意気込みが十分に感じられます。が、呪縛とも呼べるほどの、主人公の母の面影への追慕、その面影を持つ女性への執着の描き方を絶品の域に達しながら、今一歩ある高みにまでは連れて行ってくれない。・・・ その理由は、作者の執拗なまでのサディズムの描写にあるような気がしてなりません。エロスの表現としての過剰なサディズム描写が、ここでは逆に、この作品の本質のエロスを見失わせているような気がして、・・・それが残念で仕方ありません。 ただ、それでも、何か特別に期待させられてしまう作家であることに違いはありません。