大学時代の恋人だった男の罠にはまって、転落していく母と娘の運命を、人間の弱さと強さをうまく織り込みながら描写している。知られたくないという弱みに付け込んでいく男たちの姿には、調子のよさを感じるが、思うようには行かない人間関係の妙を描くのがこの作家はうまいと思う。ただ、義理の息子が義母への想いと怒りを、自分に服従させることで埋めようとするあたりは、男たちへの制裁描写の淡白さも含めて、もっとやりようがあったのではと感じさせる。読み始めると、最後まで読ませる一作である。