なんとなく映画通を気取ることなかれ。
★★★★☆
原作者でもあるジャン=ドミニクは20万回の瞬きでこの作品を書きあげたそうだ。ロックトインシンドロームという難病により左目の瞬き以外できなくなってしまった人生の中で彼はイマジネーションと記憶を辿り、絶望とも思える日々が次第に色を帯び蝶として羽ばたきを始める。
冒頭からドミニクの視点で固定され、一部回想をはさみながらも、主観を変えず、自分の現状を理解していこうとうするシーンが続く。現実を目の当たりにし混乱する中で、様々な人々との交流が自らを憐れむことを止めようとするまで、そしてそれは一つの区切りではなく、緩やかな風のように身体の隅々まで浸透するが如く、丁寧に綴っていく。
ドミニクに感情移入してしまうとストレスになるのは当然で、そう思わせる演出は見事。視覚狭窄や涙で滲むなど感情をカメラで表現しているところが、孤独を巧みに表現できており、もどかしさの中でも人に支えられて生きている実感が湧く。
キャストやスタッフを誰一人知らなくても素直に観賞耐えうる作品。普段ブロックバスターばかり見ている方にもお薦め。
また、原作を読むことで更なる理解を得ることができると思う。夏休みには是非手にとっていただきたい。
ファインアートのように美しく、悲しい映画
★★★★★
美しい映像である。クレジットタイトルの人体のレントゲン写真と、氷河の逆回しの上を
ブルーのクレジットが流れるエンディングは、まるで良質のファインアートを鑑賞してい
るようであった。撮影のヤヌス・カミンスキーはレンズを主人公の左眼に据えて成功した。
導入シーンで我々も閉じ込められ、涙でレンズは曇り、それでも目線は女性の脚にいく。
一番感動する場面が、愛人から電話が掛かってくるシーンだ。無表情の主人公ではあるが、
咽のパイプが激しく動くことで昂ぶりは解る。涙を流しながら彼の気持ちを通訳する妻。
一番官能的な場面は、病院の廊下での突然のキスシーンと、牧神のニジンスキーのダンス。
レストランで飽食中の愛撫も官能的だが、伊丹十三の「タンポポ」での場面には及ばない。
なお参考までに、この映画では、アルファベットを読み上げて文字を読み取っていくが、
日本では、ベンチャー企業の開発した「レッツ・チャット」という機器が、瞬きだけで、
あるいはその他微かに動く部位でキーボードを操作でき、福祉機器展で注目を浴びている。
そういうことにも眼を向けるチカラをこの作品は持っている。
買いです。
★★★★☆
「ELLE」の元編集長であったという華やかな面を抑制して描くことで、ともすれば下世話になりそうな話が質の高い作品に仕上がっています。「潜水服は蝶の夢を見る」という題名は、以前なにかの番組で見た「閉じこめ症候群」を潜水服になぞらえているのだと見る前に予想していたのですが、それになぜ「蝶の夢を見る」と続けているのかが作中で明らかになった時、思わず胸にぐっとくるものがありました。