私たちの日常生活のかなりの部分は、言葉によって成り立っている。文明が発達し複雑化すればするほど、そうなる。だから、言葉によるコミュニケーション、とりわけ基本的な話し言葉によるそれについてよりよく理解することで、私たちの目の前の世界は、内側から照らされ、広がる。本書は、その理解を助けてくれる、最良の書物のひとつだ。
アフリカのモシ族などという、まあ、死ぬまで名前も存在も知ることのない民族の昔話や伝説をネタにした考察から、落語好きなら読んで確実に楽しめる落語論(志ん生と文楽の違いとか)まで、それぞれの議論には興味が尽きない。完全に学問的な書物だが、主題は「言葉を使う」という、大抵の人が行っている行為である。なので、だれにでも推薦できる。