本書は国際環境法を専門とする法学者が執筆し、GATTおよびWTO体制に反対する論陣を張っています。これまで、GATTおよびWTOに反対する書籍などは感情論的な論調が多かったのですが、本書は主として海外の論文を中心として、GATTおよびWTO体制と多国籍企業の関係について論理的に記述されています。シアトルのWTOの閣僚会議に際して、なぜNGOがあれほどの強硬な態度に出た理由のいくつかが、本書を読むことによって理解できると思います。また、我が国がWTO協定を批准する際にいかに拙速な議論の上で批准したのか、国会の議事録を丁寧に拾い上げながら本書では明らかにされています。一方、本書では先進国の保守的な貿易慣行に対して批判しておきながら、我が国の米の市場開放及び繊維製品の市場開放に対して保守的な論陣を展開しており、本書で展開されている論旨が曖昧になっています。しかし、論旨に曖昧な点があったとしても、本書で述べられている事項は、やや古くなりましたが精密に既存の研究成果をふまえて記述されており、GATTおよびWTO研究において、反対派の見解を日本語で正しく知る上での基本書というべきものです。