この熱い思いを共有できる人はどれだけいるだろうか
★★★☆☆
ブルース・リーは映画スターであり、武術家または思想家として今日までいろいろな側面から語られています。
映画ビジネスに身を置く者として江戸木氏は、この本では映画スターとしてのブルース・リーについてのみ語ります。
これは聞きかじりの知識だけで武術や思想を語らない誠実さ、あるいは映画のプロとしての自負なのでしょう。
江戸木氏の潔さとブルース・リーを語る興奮が全編を通して伝わってきます。
本書の難点は「世界にブルース・リーが足りない」という江戸木氏の主張、あるいは「ドラゴン」という単語に象徴されるものが今ひとつはっきりしないということです。
映画中で表現される濃縮された世界と私たちが普段の営む日常は別物です。
あるいはまた、それが人間的な資質を指すのであれば、正真正銘のスターであるブルース・リーと凡人の自分を比べても意味がないという気もします。
私たちには何が足りないのか、「ドラゴン」とはいかなる要素なのか、そして私たちは何を獲得すればよいのか、論評であればそれらの点は明確にするべきだったのではないでしょうか。
答えが映画の中にあると書かれても、読み手としては何か釈然としません。
感覚的には言いたいことは伝わるのですが、思い入れがロジックを飛び越えてしまっている印象があります。
ちなみに江戸木氏は本書の中で「黄色いトラックスーツ」が安易に引用されすぎで、時に冗談のネタにされていることに憤りを感じていることを訴えます。
でもそれならば、スターウォーズを想起させるような一文を飾りで挟み込むなと言いたくなりますね。
本書に難点があるとしても、評価を悪いほうに振ることはどうしてもできません。
それはブルース・リーというヒーローに対する強い思い入れが本書に目一杯詰め込まれており、それは江戸木氏にだからこそ書けたものだと思うからです。
ブルース・リーに興味のある方は手にとってみるとよいでしょう。