といっても、本書は単なる開発者の英雄物語ではない。ライバル会社の見方や購入者の意見も加味されており、また、取材の過程で著者がつかみ取った日本社会への洞察、分析は特に読みごたえがある。アイボの章では、「取材を振り返って、こういうことなのだと思う。アイボには、画面一極集中のネット文化から人々の体を引き離そうという意図が込められていた。(中略)デジタル文明の流れは変えようがない。しかし同じデジタルでも、形のある物を介在させる行為の方が、気持ちが安らぐのではないか。コミュニケーションの形も変わるのではないか。少なくともアイボのオフ会を見て、そういった欲求の胎動を私は感じていた」と述べている。
また、「駆け出しライター奮戦記」とでもいうべき側面も本書に魅力を添えている。文中からうかがえる体当たり的取材の勢いや、飽くことを知らずに問題意識を追っていく著者の一生懸命さには心を打たれる。失敗談も楽しく読め、「インタビューの失敗も含め、…は再挑戦したい課題である」といった文からは、今後の著者の成長が期待できる。(加島有理)
結局、ケース・バイ・ケースで、そのときの微妙な閃きや、人との繋がりで決まるってことが
改めて認識できる本だと思います。
買い推奨です。
「宇多田ヒカル」「ごはんがススムくん」「動物占い」「iモード」「本田技研工業S2000」「甘栗むいちゃいました」「トヨタ自動車bB」「ユニクロ」「キャラっぱ!」「アイボ」「金のつぶ・におわなっとう」「聞茶」「牛角
」「千と千尋の神隠し」です。それぞれの生みの親などに取材して報告する本書は現代版のプロジェクトXに近い内容かもしれません。
本書に示されているヒット力ですが、ヒットのヒントは以下の2つのキーワードが浮かばれると思います。
(1)identification
自分をアピールできるような独自性を作り出す、あるいはそのものが独自性のもの。きゃらっぱやbB、動物占いなど携帯で自分のオリジナルを持ちたい!や自分の動物を知って会話のネタにしたい!というところがあるのでは?と思います。またbBに象徴されるような本来の走りにこだわるよりデザインが優先されること。日本全国みな中流から、何かを求める姿勢・世の中になったのでは?と思います。
(2)村社会へのあこがれ
核家族、少子化の現在において、なくなりかけいてる旧来の村社会にあったコミュニティを求めているのではないか?と考えています。すなわちアイボそのものが人に安らぎを与えるのではなく、アイボのオフ会に象徴されるように、その商品を通してのコミュニティを満喫したいという欲求が多いのではないでしょうか?
ヒット力がすべて上記2点に集約されることはないのですが、本書で紹介されている商品をもって、今の時流は何か?と考えるのに良好な一冊と思います。
発明の発想方法とか、思考回路は
どっかで役に立ちそうです。
あと著者の失敗談を素直に載せているところに
好感が持てました。
著者があとがきで、
『ただ私は、開発者の英雄物語を書くアプローチをとろうとは思わなかった。取材で得られた言葉と、消費者としての自分の感覚、実際にその商品を購入した人々の横顔、企業のおかれた状況などを一旦混ぜ合わせ、商品そのものが含み持つ時代性を描ければと考えた。』
と言っているように、あらゆる視点からその製品に対しての取材に挑んでいる。
そして決して製品だけに終わらず、時代との関連性を述べることで、ヒットの秘密、そしてヒットを作る側としての消費者の姿を浮き彫りにしてくれる。
これからヒット商品を作ろうと挑む人、今までうまくいかなかった人、なぜヒットしたかを知りたい人、の全ての人に読んで欲しい本である。
自動車やITなど、ともすると専門用語を聞くだけで読む気が失せてしまうような開発ストーリーも、優れた「素人の感覚」で、わかりやすく伝えようとしているのに好感を持った。「動物占い」や「アイボ」、「ユニクロ」、「牛角」など取り上げられた商品はどれも、だれもが一度は耳にしたことがあるようなヒット商品だが、中には取材当時とは状況が一変し、苦境に立たされているビジネスもある。単行本化するにあたり、取材の「その後」も丹念に追い、コメントが加えてある。今日の「勝者」が明日の「敗者」になってしまうようなビジネスの厳しい現状を思い知らされる。
次なる起死回生のヒットを狙うビジネスマンというよりは、一般消費者にこそ読んで欲しい。