熱い本たち
★★★★★
本書は著者が自ら3つの原発に作業員として潜入して書いた『原発ジプシー』の改題版である。今を生きる日本人にとって、かなり重要な意味をもつ作品だと思う。語り口は、告発調ではない。そんな賢しらなものではない。ひたすら淡々と労働の日々を綴った日記である。これを読んで何を思うか、どういう価値判断を下すかはわれわれ一人ひとりの読者に託されているのではないだろうか。やっている仕事が何を意味しているかよく分からず、全体像がまるで掴めない不思議さ。労働を拒絶するような設計の労働環境という不条理のなかで、朴訥な労働者たちの命が緩慢に削り削られる現実。そこに漂うのは何ともいえぬ不道徳感だ。アスベストの曝露被害を描いた佐伯一麦の『石の肺』の世界に共通する点もあった。矛盾するようだが、別世界の話のようであり、同時に徹底したリアルさも感じるのはひとえに著者の筆力によるものだろう。読んでいるうちに現場で著者と同じミリレムを食っているような錯覚に陥るところが恐ろしい。本書が発表された1979年というと私が生まれた年である。そんな昔に既にこんな世界が出来上がっていたのだと思うと言葉を失う。なんのことはない。その別世界が、30年越しにコンニチハとやって来たのである。