とはいうものの、本書は「ガイド」(というのは日本の出版社が勝手につけた副題なのですが)というほど、日本の読者をやさしく導いてくれるような構成にはなっていません。どちらかというと、最近の英語話者がいかに句読法に無頓着・無神経・無関心・無責任であるかについて、ときに激しい皮肉口調で、ときに諧謔的口調で、批判の矢を次々と繰り出す知的エッセイといった風情の本です。
ですから本書は、例えばコロンとセミコロンの差異について、一応の解説はされてはいるものの、それは英語学習参考書のように簡明で一目瞭然な説明ではありません。
本書にはイギリス流のユーモアの衣が日本人には少々過剰な感じでまぶしてあり、その面白みを理解するのはなかなか骨が折れます。(読んでいる途中で「ブリジット・ジョーンズの日記」のことを思い出しました。あんな感じです。)
訳者が懸命に脚注を用いて日本の読者の理解を促そうと努力してくれているものの、即座にニヤリとできるような仕上がりにはなっていません。
また、英語の句読法について解説をするという趣旨の本の翻訳にしては、あまりにも誤字脱字が多く、なんだか悪い冗談のようで、笑ってしまいます。ゲラのチェックを誰も満足にしなかったのではないでしょうか。とてもお粗末です。
いずれにしろ本書に書かれている句読法も唯一絶対のものではないのだろう、というのが本書を読了しての私の率直な感想です。おそらく著者の説く句読法に反論するネイティブはいくらもいるでしょうし、だからこそこうした言葉をめぐる論争の本は洋の東西を問わず、これからも数多く出版されていくことでしょう。