今までにない画期的な現代中国文化論
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タイトルだけ見るとよくある紹介本のひとつみたいだが、よくある「中国四千年」的な礼賛本でもなければ、カオス的なパワーへの憧憬本でも、「厄介な隣人」本でもない。現代中国文化を中国の消費者と同じような立場で追いかけてきた若手研究者たちによるレポートである。
例えば中国の映画業界を語る場合に必ずと言っていいほど出てくるのが、当局による上映禁止の問題である。この手の話題ではたいてい、国家権力による統制 vs. 芸術家による自由な表現、という暗黙の二項対立が見え隠れする。確かに、中国の映画業界は政治と無関係ではないし、その理不尽さは「翻弄」という言葉がよく似合う(この本を読んでると、理不尽さはテレビの方がすごいみたいだけど)。しかし、中国の映画界における「上映禁止」の実態は次の通りであるという。
「…中国における発禁処分は、道徳上の問題から下されるケースが大半で、政治的理由によることはむしろ稀である。小説では、センセーショナルな若者生活やセックスの描写が社会的な話題になり、相当に売れた後になってから発禁処分が下される例が多い。定年退職したお堅い共産党の元幹部が話題作を読み、目くじら立てて当局にねじ込み、発禁処分を下させているのが実態だとも言われている。」
「映画では中国・香港合作のコメディー映画『少林サッカー』が発禁になっているが、それは中国当局の作品審査の完了を待たずに香港で公開したという、手続きミスに対する懲罰であり、内容とは全く関係ない。」
従来の類書がなぜか「そもそも中国とは〜」のような大上段から語り始めるのが多いなか、冷静に同時代の中国を見つめる本書の視線は、非常に貴重なものと言えるのではないだろうか。