精神分裂病を治療するという概念よりも先に、「危険」と決め付けられた精神病患者を隔離幽閉し、世に出させないようにするために存在した精神病院。それは、治療など行わず、ただ人を家畜以下に扱うだけの収容所として存在していた。
筆者は精神医療の現場に飛び込み、のち自ら開業し、さらに20年以上の歳月を費やし、群馬県太田市に患者と地域をつなぐ掛け橋を築いてきた。それらの苦闘と成果を克明に告白している。
私自身もこれまでボランティアを続けてきて、いわゆる知的障害者更正施設に出向き、自閉症やそれに類する症状を持った人たちと数多く出会ってきた。それだけにこの本を読んでほんの何十年か前の日本がいかに恐ろしい社会だったかを感じずにはいられなかった。
今も万全とはいえない福祉。だが、本に登場する陰惨な現場は今の福祉社会ではあまり見られないものだ。障害を持った人たちがある一定の療養を経て社会に出る。そのために精神医療を支える善良な人々がどんなに苦労を重ねてきたのか、言葉にならない。もう少し知識を蓄えて福祉と向き合う必要があることを考えさせられた。