太平洋戦争が始まってまもない頃、当時の日本陸軍の誇る戦闘機「隼」を駆って、数々の武勲を立てて軍神と謳われた加藤建夫隊長の活躍を描いた戦争映画。監督は『ハワイ・マレー沖海戦』に続いて、黒澤明などの師匠としても知られる山本嘉次郎監督が手がけた大作である。戦時中に作られた戦意昂揚映画としての側面を見逃すことは決して出来ないものの、本物の戦闘機が編隊を組んで大空を舞うさまなど、今の日本では実現不可能な本物のダイナミックあふれるシーンが次々と繰り出されていくのには圧倒される。映画そのものとしての語り口も淡々としながらテンポはよく観ていて飽きさせない。その他、主演を務める藤田進の名演、円谷英二による秀逸な特撮など、映画としての長所を讃えるところを多分に持ちえる快作として大いに認めたいところだ。(増當竜也)
軍神・加藤建夫の最期を描く。航空機映画は海軍だけじゃない。
★★★★☆
本作は昭和19年の3月に公開され、同年のNo.1ヒットを記録した作品だ。軍都・旭川に行くと加藤建夫の展示品が多く見られるが、それもそのはず、加藤は旭川の出身で、当地は未だに陸軍の遺した建物が点在しており、全国でも一番「軍都」の面影を残しているところだ。興味のある方はぜひ訪れて欲しい。陸軍省としては映画の加藤を「神」としたかったのだろうが、山本嘉次郎はあえて「人間」として描いた。よって今観ても違和感のない仕上がりなのだと思う。豪放磊落でカメラ好きという面もきちんと採り入れ、うっかり英語を口にしてしまうエピソードまで映像化されている。陸軍は戦後、もっぱら「鬼の憲兵」「海軍に比べて暗い」「閉鎖的」と悪口を言われるが、本作や木下組の大問題作「陸軍」を検閲で通してしまうセンスは、ある意味で凄い(笑)。国全体の暴走は十分非難されるべきものだが、現代の認識では海軍のムチャが敗戦の糸口になっているし、また関東軍が頑張らなければ今ごろ北海道はロシア領だ。我々もそろそろ正面から歴史を見据えなければいけないね。それにしても「隼」のカッコいいこと!海軍の三菱製・ゼロ戦と陸軍の中島製(現スバル)・隼は、やはり世界に誇る名機だと思う。これをハリウッド帰りの撮影監督・ハリー三村が豪快に撮り上げており、ドッグファイトも凄い迫力だ。特典映像を観ると、敵機も英軍から奪った「ホンモノ」を使用しているとのことで、そりゃ迫力も出るわけだ!加藤役の藤田進は当時の東宝のエースでもあり、黒澤の「姿三四郎」でも主役を張っていた。基地にクリスマスツリーやリースが飾られていたりと、昭和19年なのにかなりお茶目な映像も素敵だ(笑)。映画はもちろん軍神の死で終わるが、大東亜戦争もいよいよ終末に向かう時期であり、そんなことを考えて観ると違う見方が出来るだろう。星は4つです。
加藤隼戦闘隊は心躍らせる名作でした
★★★☆☆
昭和16年ごろを背景とした昭和19年公開の映画であるが、日本映画のレベルの高さを教えられた。
軍隊趣味はあまりないが、戦闘機の戦闘シーンや特攻には感動を覚える者で、何の予備知識もないままこのDVDを手にした。
東映映画のヤクザのような軍人たちと違って、すがすがしい役者たちばかりで戦前の日本人を誇りに思えた。
何よりすごいのが、戦後の映画と違って、本物の戦闘機が登場し、技をお披露目していることだ。
現在もアメリカではプロペラ機の競技があり、テレビで垣間見たことがあるが、違う! 戦闘機ならではの精神的な緊張が心地よく伝わってくる。見てよかった! ゼロ戦の影に隠れてしまいがちだが隼にも注目したくなった。
ビデオ版より長い
★★★★★
限られたチャンネルだけで発売されていたビデオ版を持っていました。10回以上は観ているので、今更DVD買ってもねと思っていました。が、それは間違いでした。ビデオ版より10分以上長くなっています!!船団上空直援帰還時の夜間飛行や入院中の加藤部隊長の言動など、観た事のないシーンが随所に登場します。パッケージの「昭和19年公開の全長版で初DVD化」とはこういう事だったんですね。ビデオをお持ちの方で、まだDVDをご覧になっていない方、一度ご覧になって下さい。また、音声状態が良くないので、クローズドキャプション方式の字幕も大変有り難い。特にパレンバンに降下した挺身隊員達の台詞等は、DVDで初めて全貌が判りました(ただ、「高度を取って雲の上に出る」は「雲の上に出よ」の間違いでは?←僚機への指示なので)。画質もビデオより良いように思います。「意図の通ずる事多く、部隊長は愉快であるっ!」
一式戦の燕返し(^_^)v
★★★★★
一式戦隼の大ファンであります。この映画『加藤隼戦闘隊』でも出てくる一式戦の華麗なる燕返しのモノケロ映像に目が釘付け間違いなし。一式戦というところが抜群です。エンジンナセルに機関銃の銃口二つ。少し盛り上がっているところに、一式戦の魅力が詰まっています。
レシプロ戦闘機は、近くでは知覧平和記念館で観ることが出来るのですが、小生の産まれる前、60年以上も前に、これを乗りこなし空戦を繰り広げておられた先輩方に畏敬の念をいだきます。
それにしても、重爆や輸送機もろもろ実機か出てくるだけでもう大感激です。凄いの一言。それに撮影の素晴らしいこと。たいへんなロケが想像されます。映画を越えたものを感じます。
この物語では、悲観という言葉は相容れない、当時の若者達のひたむきさと優しさ。もう何とも言えない味わいです。コーヒーミルでコーヒーのうんちくをみんなに隊長が談笑されるシーンには、思わず涙です。併せて、水木しげるさんの『ラバウル戦記』も読んで観て欲しいです。
一つのなぞ
★★★★★
話の展開といひ、特撮といひ、当時としては見事な映画でせう。特に空中戦の実写映像は他を以て替へられませんね。
それはさうと、映画中で加藤隊長就任(実は再任だけどね)の際に隊員によつて部隊歌(加藤隼戦闘隊の歌)が歌はれるシーンがあります。このシーンは昭和16年4月のことです。この映画の解説でも言及があつて、後に感状を七度受けたと歌はれてゐるのが、この時期ではまだ二度だつたので、歌詞もさうなつてゐるといふ話が出てきます。でもこのときこの加藤部隊に「隼」はまだ配備されてゐないのですよ。配備は16年8月です。映画中でも、加藤隊長就任後数か月を経て最新鋭機「隼」が配備されたといふ話になつてゐます。しかし最初のシーンの部隊歌ですでに「隼は征く、雲の果て」と歌はれてゐます。隼はまだないのに、何ででせうかね。加藤隊長が最初に登場するときも、固定脚の九七戦に乗つてゐるといふのに。