来し方行く末。
★★★★★
社会人として普通に生活していれば、いやでもついてまわる義理がらみの“冠婚葬祭”。
とかく縛られることの多いこれらのことを、4人の主人公を仕立てて
ある側面から鮮やかに切りとった短篇集。
ここに描かれた4篇は1話完結で、主人公の性別も年齢も異なる。
それぞれの立場で遭遇した「冠」「婚」「葬」「祭」をひとつずつテーマにして、
出会いあり、回顧あり、他人ながらその人生を彷彿とさせるエピソードあり……で
けっこう我が身に引きつけて読んでしまった。
「冠」にあたる「空に、ディアボロを高く」では、二十歳の心意気が清々しく
胸に響いて快かった。
あとの3話は、生きていくことそのものを巧みな構成で語る。
喜びや苦しみやこの世に遺した思いが、ふと誰かの胸に落ちて、絵の具が
にじむようにゆるやかに伝わっていくのだ。
特に「祭」で描かれた最後の送り盆の話は、人が生きてきた
証のようなエピソードに気持ちが熱くなった。哀しくも愛おしい話だ。
延々と続く日常や生活のなかにまぎれていたものにふと感じ入る瞬間が、
実に見事に描かれている。