二冊のガイドブックを比較する
★★★★☆
海外旅行を企画するときには、1.『地球の歩き方』を熟読すること(毀誉褒貶はあれど、絶対欠かせない定番)、2.できたらその国の言語を少しでも学んでおくこと(マイナー言語については白水社エクスプレス・シリーズが便利だが、欠陥も多い)、そして3.歴史、文化、自然、社会等について予備知識を得ておくこと。3.については手に入りやすいシリーズとして、(1)山川出版社「世界 歴史の旅」、(2)新潮社「世界の歴史と文化」があるので、ギリシアを例に、並べてレビューしておく。
(1)総計200頁のうち、73頁が歴史に、残りが史跡ガイドに当てられている。この程度の頁数で5000年のギリシア史をカバーするのだから、当然駆け足で欠落も多い。執筆担当者による出来不出来もあるが、7、8章には注目。ギリシアといえばまずイメージする「古代ギリシア」と現代ギリシアとの間に連続性はなく、ビザンチンこそが現実の故郷であること、ローマ帝国の言語がなぜラテン語ではなくギリシア語であったのか(本書には書かれていないが、新約聖書がギリシア語で書かれた理由がそれでわかる)等々、欠落しがちな知識が手に入る。紺碧のエーゲ海と純白の神殿ばかりに目をやっていては、ギリシアが半分になってしまうのだ。
簡略すぎる近代史も含め、興味が深まれば専門書に当たればよい。史跡ガイドに旅行の実践的な情報はなく、『地球の歩き方』の補助的存在。
(2)70頁に満たない観光ガイドは本書の主眼ではなく(当然、別のガイドブックが必要)、残りの15章こそが本書の圧巻。信頼のおける執筆陣が、結構専門的な内容にまで踏み込んでいる。初版刊行から時間が経ってしまったとはいえ、内容的に古びはしないので、通読できなくても値段以上に役立つ。他には代え難いシリーズなので、増補新版への期待大。
(1)(2)いずれかと問われれば、文句なく後者に軍配が上がる。『地球の歩き方』と併読したい。