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小説 秦の始皇帝 (時代小説文庫)

価格: ¥560
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川春樹事務所
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虚無感に支えられた権力史観 ★★★☆☆
剣豪小説で主に知られる津本陽氏が、中国の歴史上、最初にして最大の独裁者である始皇帝について、諸資料からエピソードを綴りあわせるようにして描き出した、コンパクトではあるが珠玉の中篇である。
 
津本氏の、ある種の虚無感に鍛えられた、しかも同時に、地を這うがごとき着実な描写は、殺戮の技術から精神の高みへの昇華を目指した剣豪たちの道程や、おびただしい人の死を呑み込みながら興亡を経ていった戦国武将らの人生を描き出した数々の小説でも発揮されたが、氏の乾ききった描写力の凄みは、むしろ、本作『秦の始皇帝』のごとき、中華の巨大な王朝にまつわる、「権力史小説」とでも言うべき、ごく少ない作品において、最も発揮されたように思える(津本氏の少ない中国小説のもうひとつの傑作が、「中華ファシズム革命への道程」とでも言うべき、『則天武后』である)。
 
基本的に、本書にあらわれてくるエピソードや人物群像、それに関する解釈などは、ほとんどが古典や先行資料から「そのまま」引用されたものであり、なぞ解きのような歴史の斬新な解釈や、奇をてらった心理描写などは努めて書かれていない。

しかし、津本氏の剛的な筆力によって、それら既知のエピソードや人物群像が、石版に彫り刻むように重たく語られていくにつれ、想像もつかぬ中華の権力の巨大さ、それにまつわるおびただしい人の死と破滅、独裁者の恐るべき虚無など、活きた姿で行間から立ち現れてくるのを読者は感じるであろう。シンプル・イズ・ベスト、まさに「練達」の筆力であろうと思う。