美しいメロディーの曲ばかりがそろったアルバムである。聴き覚えのある曲も多く、全編から静けさが染みわたってくる。ディスクのオープニングを飾るのは、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」からの「私のお父さん」。ジョシュア・ベルは、ハープの伴奏とともに、息の長いメロディーを豊かな感性をもってデリケートに紡ぎ出す。ベリーニの「ノルマ」からの「清らかな女神」は、ベルの手にあってもベル・カントの権化としての面目を保っている――ベルのヴァイオリンは“歌う”のだ。モーツァルトのピアノ協奏曲第21番の中間楽章は、ヴァイオリンと相性ぴったり。ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」は、温かさと官能性いっぱいに演奏される。
この種のリサイタルは、とかく甘ったるいものになってしまいがちだが、賢明なベルは曲自体がすでに充分甘口であることを心得ており、いたずらな感傷を極力排したごく控えめな態度で演奏にあたっている。ちょっとした伴奏がどのトラックでも効果的で、特に木管が素晴らしいが、あくまで上品な使い方だ。このCDは、つまりはたいへんに美しいのである。贈り物としても、またムードづくりのBGMとしても一級品だろう。(Robert Levine, Amazon.com)