Dehli 9
価格: ¥1,980
リチャード・ドーフマイスターは、いまや古典となった1998年発表のダウンテンポなアルバム『The K&D Sessions』によって、ピーター・クルーダーとともに長らく記憶されるだろう。あのアルバム以来、クルーダー、ドーフマイスターの両名は、それぞれの“サイド・プロジェクト”であるピース・オーケストラ、そしてトスカにかなりの時間を割いて取り組んできた。
『Dehli 9』は、トスカの最高傑作(具体的に言えば、1999年の『Suzuki』)には及ばないものの、やはりあらがいがたい魅力があり、循環するビート、けだるいエレクトロニクス、選び抜かれた数人のヴォーカリストたちを使って、自発的な白昼夢の状態をつくり出している。「Rolf Royce」は、Stephan Graf Hadik Wildnerのラリったヴォーカルが襲いかかってくる曲で、長いメロディックなフレーズがスタッカートで繰り出されるベースラインにぶつかり、見事な展開となる。よりジャジーな作風の「Wonderful」では、アール・ジンガーの素っ気ないスタイルが絶妙にマッチした。
さて、ミニマル音楽のファンは、ボーナスCDの中身もチェックしておきたいところ。この中には、トスカのもうひとりのメンバーで、相棒のドーフマイスターに似た嗜好(しこう)を見せるオーストリア人ミュージシャンのルパート・ハーパーによる作品が収められている。これは「12 Easy-to-Play Piano Pieces」と題されており、ハーパーが比較的初期に書いたもので、ほの暗い、冷たい美しさを持った連作だ。『Dehli9』の優雅さと強烈さの入り混じった感覚は、午後遅い冬の曇り空の日差しにも似て、あとを引くように周囲の風景にとどまっている。しかし、それもそう長い間ではなく、かすかに差し込む光はゆっくりと闇の中へと消えてゆくのだ。(Matthew Cooke, Amazon.com)