時代小説のなかで描かれる奥深い人間ドラマ―集大成への布石?
★★★★★
読売新聞の広告で本書の存在を知りすぐに購入して読みすすめた。「著者10年ぶりの単行本書き下ろし!」という文言が気になったが、「悪道」なるタイトルもまた魅力的に思えた。以前に文庫『悪の条件』を読んで以来、「悪」を真正面から描き切る筆力に作家の真髄があるのかもしれないと勝手に思い込んだせいもあろうか。とにかく400頁におよび徳川綱吉元禄時代のなかで多彩な人物を登場させ、それぞれが背負う宿命や悲哀ぶりを読み応えに富む文体で奏でた本書はやはり傑作である。ラストまでの緊迫感がたまらない。長編だが中断することなく一気に読ませてくれる。
もともとは本格社会派推理小説の先駆的存在として知られる著者だが、近年は時代小説、さらには俳句の創作活動も活発におこなっている。本書は著者のこれまでの作風すべてを結集して仕上げた作品だ。芭蕉を登場させ、彼の足跡を伏線とするシナリオからも強いこだわりが感じ取れる。こうした作品には史実についての正確で豊かな知識はもちろん、それらを駆使して壮大なストーリーを淀みなく展開していく構想力が不可欠である。単なる「お話」ではない。森村誠一だからこそ書きえたのだ、とおもう。
今であろうと昔であろうと奥深い<人間ドラマ>には読者の心に響く何かがある。その人間ドラマに共感するかしないかは別にせよ、人間が「生きること」・「死すること」の意味、そしてまた「悪」といういかなる人間も決して逃れ得ないもの(宿命)をはたと直感するとき、本書は極上の人生哲学書としての風味をも奏でるのではないだろうか。われわれ人間とはいかなる存在であるのかを突きつける世界への扉が本書である。多くの人に広く推奨したい。
時代小説のなかで描かれる奥深い人間ドラマ―集大成への布石?
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読売新聞の広告で本書の存在を知りすぐに購入して読みすすめた。「著者10年ぶりの単行本書き下ろし!」という文言が気になったが、「悪道」なるタイトルもまた魅力的に思えた。以前に文庫『悪の条件』を読んで以来、「悪」を真正面から描き切る筆力に作家の真髄があるのかもしれないと勝手に思い込んだせいもあろうか。とにかく400頁におよび徳川綱吉元禄時代のなかで多彩な人物を登場させ、それぞれが背負う宿命や悲哀ぶりを読み応えに富む文体で奏でた本書はやはり傑作である。ラストまでの緊迫感がたまらない。長編だが中断することなく一気に読ませてくれる。
もともとは本格社会派推理小説の先駆的存在として知られる著者だが、近年は時代小説、さらには俳句の創作活動も活発におこなっている。本書は著者のこれまでの作風すべてを結集して仕上げた作品だ。芭蕉を登場させ、彼の足跡を伏線とするシナリオからも強いこだわりが感じ取れる。こうした作品には史実についての正確で豊かな知識はもちろん、それらを駆使して壮大なストーリーを淀みなく展開していく構想力が不可欠である。単なる「お話」ではない。森村誠一だからこそ書きえたのだ、とおもう。
今であろうと昔であろうと奥深い<人間ドラマ>には読者の心に響く何かがある。その人間ドラマに共感するかしないかは別にせよ、人間が「生きること」・「死すること」の意味、そしてまた「悪」といういかなる人間も決して逃れ得ないもの(宿命)をはたと直感するとき、本書は極上の人生哲学書としての風味をも奏でるのではないだろうか。われわれ人間とはいかなる存在であるのかを突きつける世界への扉が本書である。多くの人に広く推奨したい。