ただの冒険小説ではない!
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みなさんが印象として持っている『冒険小説』という言葉は、この本を語るにあまりにも表面的である。ハックが変装する場面にはアイデンティティーの問題があり、教会が黒人差別を正当化しているところにはトウェインの風刺が見られ、沈んでいく船にはロマンティシズムへの背反が見られる。嘘や殺人に満ちたこの小説を少年向けの小説と捉えるには、あまりにも深い小説だと私は思う。また、ハックを利用しようとする父親と、心優しく娘を思う黒人奴隷のジムとの対比や、金銭に執着のないハックとお金に関して口にするトムとの対比も興味深い。(洋書ではハックが黒人だったのではないか、と議論する本もあり、非常に興味深いので、おすすめである。)
ミシシッピを渡れ!
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行儀悪く、口も悪い。そんなハックの元へ親父が帰ってきた。あいかわらずのならず者の親父から脱出するハックの小粋な作戦がいい。悪ガキながらも頭の回転の速い少年がミシシッピ横断を夢みるあたりは、さすが少年冒険小説の傑作だ。
また黒人奴隷の問題もあり、同じ少年でありながら差別される側のジムにハックが対等に接するのもいい。
冒険は終わらない
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文豪ヘミングウェイがアメリカ文学史上最高の傑作 と評したトウェインの傑作。帰るところのあるトムに対してどこにも自分の場所を持たないハック。自然を相手取った冒険であると同時に、大人の論理に抗い逃亡奴隷をつれた浮浪少年が繰り広げる社会に対しての冒険小説。