まずダントツに字が大きくて、うれしい。
紙質もよくフォントもいい。
そしてページ1面の彩色挿絵(赤坂三好)が、ときどき目の前に現れる。
そのカラー版画の趣きが、モダンでシック、おしゃれで愉快。
すべての漢字にはふりがな付き。
また、語釈は行間にそっと挟まれ、読書の快適な流れを妨げるどころか、グイグイ後押ししてくれるのである。
通常の語釈とは別に、事物に関する注が、当該ページの上段に置かれている。
これがまた親切このうえない。
すなわち、「山陽」「サッカレー」「ゾラ」「東郷大将」「スチーヴンソン」といった人名には肖像画・写真が、「梧桐」「鳶口」「火消し壺」「八分体」「立葵の紋」「行灯袴」といった物体などにはイラストが、惜しみなく添えられている。
気になったページで、ちょっと目をあげれば、すぐのみこめる。
視覚的にダイレクト。
疑問を残さず、先へ進める。
底本は岩波『漱石全集』だというから、信用も置ける。
あえて難を言えば、ひらがなを多くして、会話を改行しているという処理がオリジナルに忠実でないということくらいか。
しかし、これほど読みやすいのだから、メリットの方が大きいだろう。
スピード感があり、目にもやさしい。
書籍のまま映像化された、スケートを履いた『猫』である。