本書は、従来多かった学説のつまみ食い紹介とは一線を画す。議論は、政治学が単純な学問でないことを反映して総じて難解であり、ハウツウものやカタルシスを求める読者には向かない。
第1部原論は、文字どおり政治学原論であり、人間論から始まるその議論は、類書と比べてきわめて構成上の違いが大きく、著者がもともと政治思想史研究者であったことを如実にしめす特長である。
第2部の現代民主政論は、民主政の動態を分析。ナイション・ステイト体制が、自治体・分権政府と地域連合とのあいだで揺らいでいることをも射程に入れる。ステイトを声高に主張する立場は、政治学者としての著者のものではない。
なお、グローバリゼーションが進む現代世界において、「国家」がますます大きな焦点になっているというのに、この本では「国家」をテーマにした章が存在しない。率直に言わせてもらうと、少なくともわたしには、国家論抜きの政治学の講義などというものが成り立つとは信じられない。