目次に並んだ、「ウォール街が仕組んだ詐欺行為の数々」「エンロンのリンゴを誰が腐らせたか」「ワールドコム倒産で一斉に動いたビッグ・ファイブの人脈」「シティグループとはいかなる金融機関か」などの文字を見るだけでも心が躍るが、読んでみて内容の緻密さに驚く。アメリカで起きた金融スキャンダルの真相が、関係者の経歴、金脈、人脈、姻戚関係とともに記されているのである。本書で明らかにされた、「金融先進国」アメリカの実態は、あまりにずさんである。大企業と会計事務所の癒着、関係者によるインサイダー取引、そしてチェック機能の不在…。金融マフィアや詐欺師が横行した初期のウォール街はもはや存在しないと思っていたが、どうもそうではないらしい。
本書はまた、『世界石油戦争』の姉妹編という位置付けから、イスラム・マネー、カスピ海油田の攻防、アメリカのイラク攻撃、などのトピックも扱っている。全体の約半分がウォール街の腐敗に関するもので、残り半分が、中東関連と、「アメリカ帝国崩壊の予兆」と題した論考からなっている。
アメリカに対する攻撃がやや行き過ぎの感もあるが、綿密な取材から得た、読みごたえある内容はさすがである。アメリカ合衆国の今後をうらなう意味でも、ぜひ読んでおきたい1冊だ。(土井英司)