書かざるをえなかった因果な経験
★★★★☆
エヴェレストの登山で結果的に12人が死んだ96年の事件を、登頂した当人、しかも取材前提で同行したジャーナリストが語ったものです。クラカワーは抑制した筆致で何が起こったかを淡々と記述していきます。遭難本というのはどこかミステリー的になる(ならざるをえない)ところがあると痛感する一冊です。
人物がフル登場なので途中まで名前と性格・背景が混線しますが、ラストにかけて人物がしぼられて焦点化されていき、それぞれがどこでどういう行動をとったかが、脳に刻まれてきます。
ある地点で、クラカワーが人を誤認し、またある虚偽の情報を相手に告げてしまいます。それらがめぐりめぐって当事者たちの生死に関与する。とはいえ、それをもってクラカワーを責めることはなかなかできない……よくぞ、言いづらいことを本人が白状している、と思いました。
この大事件には、他の当事者も本を出していますが、最初に読むにはもってこいです。
ルートマップとエヴェレスト頂上ピラミッドの写真があるので、それと見比べながら読み進めることになります(単行本ヴァージョン)し、非常に便宜がいい。
クラカワーはほんとうに因果な経験をしましたね。「書かざるをえなかった」作品とはこういうものだろうと思った。
一気に読み切りました
★★★★★
登山家でもありジャーナリストでもある著者が加わった一行が遭難。エベレスト史上、未曾有の大量遭難事件となった経緯を著者なりに検証した一冊ですが、非常に質の高いドキュメントとなっています。一人称で書かれていながら独りよがりな文章にならないように丁寧に書かれていて、共感が持てました。
小さな出来事の積み重ねが、じわりじわりと大量遭難につながってゆくという過程が、非常に説得力を持って描かれています。
『死』がすぐ目の前にあるという、極限状態での人間の心理状態とはいかなるものか?という事を考えさせてくれる本です。
死を覚悟した夫と、家で待つ妻が交わす無線を通しての会話がせつない..。
事実は小説よりも…
★★★★★
【たまたま雑誌のレポーターとして参加していた著者が12人の死者を出す遭難事故の当事者となり奇跡的に生還】という粗筋に興味をそそられ、読みました。
私は登山もしないし、そういう知識もありませんが、とても読み易かった(分かり易かった)です。
登山コース・各所の名称・キャンプ設営場所が記載された地図も添えられていて何が何処で起きたのか照らし合わせて見る事が出来ますし、写真増補版(1998年刊)という事で当事者達の登山中の写真なども掲載されていて、とてもリアルです。
エベレストなんていうものは卓越した登山家だけが登る山だと思っていましたが、実際は色々な思惑を抱えた人達が集い、でも同じ山を登るのにお互いが影響を及ぼさないでは済まない…。
そうして幾つかの事柄が複雑に絡み合ったり増幅したりして、この大惨事が起こったのだと思いました。
想像を超える遥か上空の世界(飛行機の高度と同じ位だそうです)
別の登山家の「8000メートル以上の高度は道徳を云々出来る場所ではない」という言葉が、とても重く印象に残りました。
又、ありきたりの表現ですが、自然の驚異も感じずにはいられません。
色々な意見もあるようですが、事故の生存者として「出来るだけ正確に正直に伝えたかった」という言葉に嘘はないと思いますし、1人の人間である以上、多少の感情や自分なりの解釈が入るのはやむを得ないとも思います。
この事故の事だけではなく、【エベレスト登山】が何たるものかという事を少しでも知る事が出来、良かったです。お奨めです。
”Best CRM Text Book”
★★★★★
航空業務従事者(Pilot,LAME,ATC等)に本書の購読をお勧めします。
本書は、6月19日にPerth, Western Australiaで開かれた、Dr.Tony Kernのセミナー(Human Error and Threat Management)にて、”Best CRM(Cockpit Resourse Management)Text Book”として紹介されていました。
セミナー後、Dr.Tony Kern(元 B1Bomber Pilot, US AirForce)の著書と併せて購入して読了しました。
人間の希望、欲望、順応性と不適応、体と心の変容、希望的観測、自己観察力の後退、状況判断力の後退、実績の罠、成功体験の罠、過信、役割と権限の功罪、慈悲と勇気の代償、知識と訓練の尊さ、時間に斬り刻まれていく魂、そして人々の絆等、極限のCRM Textとして読み進めました。
小職は飛行操縦と計器飛行の教官を生業にしておりますが、本書を少しでも役立てられればと思っています。
非常に読ませる本でした
★★★★☆
筆者は綿密な取材を重ね、丹念に全体像を描き出そうとしていた。
冒頭から散見する事故の予兆と、後半の悲劇に雪崩れ込む筆致は本当に凄まじいものがあって、読んでいて恐ろしくてたまらなかった。
またエベレストに登山にストイックなイメージというか、軍隊のような整然とした組織で登る印象があったのだけど、
本書ではツアーのような営業登山や、隊同士やシェルパとの間に生まれる軋轢など、生々しい問題を抱えている描写が印象的だった。
いろんな意味で登山家も完璧な人間ではないわけで、酸素もなく、思考も判断力も鈍る高所で絶対の安全はあり得ないのだなと感じた。
初読時は間違いなく☆5の評価をつけたけど、
他の人も言う通り、「デス・ゾーン8848M」読後はロシア人ガイド、ブクレーエフへの記述が
フェアじゃないと感じるので-1。
本書では諸悪の根源のように記されている彼だが、デスゾーンを読んで180°印象が
変わった。彼を悪役に当てはめてしまったことだけが本当に残念だ。