インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

Bel Canto (P.S.)

価格: ¥755
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Harper Perennial
Amazon.co.jpで確認
   舞台はとある南米国の副大統領の邸宅。そこでは世界的に有名なソプラノ歌手が、滞在中の日本人ホソカワ氏の誕生日を祝して歌を披露していた。この日本産業界の大物をなんとか口説き落とし、この国に工場を建設させたい…。それが副大統領の腹づもりだった。ところがちょうど伴奏者がソプラノ歌手にキスをしているころ、18人のテロリストたちがエアコンの通気孔から建物内部に侵入しようとしていた。彼らの標的は大統領。だが不幸なことに彼はそこにはいなかった。大好きな連続ドラマを見るために自宅にいたのだ。こうして計画は最初からつまずいてしまう。

   人質になったのはホソカワ氏、それにアメリカ人ソプラノ歌手のロクサーヌ・コスだけではない。ロシア、イタリア、フランスからの大使も含まれていた。犯人たちは小柄でおとなしい副大統領ルーベン・イグレシアスには何の興味もないらしい。そこで彼はすきを見て逃げ出すことに成功する。その間にもこの地で休暇を楽しんでいた赤十字のスイス人ヨアヒム・メスナーが交渉人として登場、取引条件や要求のくいちがいのせいで何度も行き来を繰り返すことになる。1週間、1か月…と月日ばかりがむなしく過ぎていくのだった。

   リアリズムの何たるかを十分に心得たアン・パチェットは、人質とテロリストの間を魔法使いのように軽やかに飛び回り、その心境をつぶさに伝える。そこから垣間見えるのは、どの人物にも共通する「人間らしさ」のもつ深みだ。パチェットの語り口はほどよく詩的かつ音楽的であり、温かさとやさしさに満ちあふれている。初めてオペラを耳にしたある若い聖職者は、コスに対してこのような反応をみせる。

この世にこんな女性がいるなんて思いもしなかった。きっと神はお膝元に仕えるこの女性に御声をそのまま注がれているにちがいない。いったいどんな厳しい修行を積めばこんな声が出せるのだろうか。彼女の声はまるで地球の真ん中から響いているようだ。こうなるまでに彼女はどれほどの努力と精進を重ねたのだろう。気持ちを集中し、ほこりや石、家の床板といった障害物もものともせずその声を自分の足もとまで引き寄せ、体中に引き上げる。彼女の体を満たしあたたかさで昇華されたその声は、ついに白ユリのようにたおやかなその喉元から発せられ、天にまします神のもとへと届けられるのだ。

   やがて、音楽以外の共通語をもたない人質58人と犯人たちの間には予期せぬきずなが生まれていく。完全に静止した時間の中で彼らの関係全体がしだいに変化をみせていく。だがいくら本書が魔術的リアリズムの可能性に富んだ創造的な小説とはいえ、もちろん最後にはそれなりの結末が待っている。しかし『Bel Canto』は非常事態を描きながらも、すべてを超越した美そして愛をやさしく語りかけてくる小説だ。(Victoria Jenkins, Amazon.com)