トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルというまったく音楽性の異なる変わり種コンビによる小粋なラウンジ・サウンドの音楽は、レトロなジャズのリヴァイヴァルよりも軽く15年も早く作られ、あらゆる点で優れている。デジタル・リマスタリングをかけられクリアになった本作は、ウェイツの名高いキャリアの中でもこれまでになくキャッチーなメインストリームの音楽であり、皮肉なことに一番の異色作でもある。ウェイツの耳障りながなり声は、気まぐれな感情の渦に巻きこまれた恋人たちの会話という形をとり、ゲイルの歌姫としての驚くほどブルージーな声とまったく対照的だ。本作のウェイツの音楽は、音数を抑えた巧みで鬱々としたボーンズ・ハウのプロダクションと、ベースのグレッグ・コーエン、サックスのテディ・エドワードスム、バンドのキーとなる叙情的で悲しげなジャック・シェルドンのトランペットというベテランのジャズ・アーティストにバックアップされている。
本作はリリース以来長いあいだ、モダン・クラシック――完璧に音楽で表現されたロマンチックな白昼夢、ラスヴェガスのネオンの下に積み重ねられた物欲しげな傷ついた心を決して忘れていない――として確固たる地位を占めてきた。このリイシュー盤には、「Candy Apple Red」の別ヴォーカルの未発表アウトテイクとともに、オープニングの「Once Upon A Town/Empty Pockets」の早々とお蔵入りになったバージョンもフィーチャーされ、ウェイツのすぐれた音楽的手腕だけを強調することを拒んでいる。(Jerry McCulley, Amazon.com)