巨匠の失われた作品、再発見の説得力。
★★★★★
巨匠の失われた作品、再発見の説得力。
本書で描かれているのは主に2つのこと。
ニューヨークの画廊で売られた羊皮紙の作品を科学鑑定にかけること。
そしてもう一つが、ダヴィンチ作という説の有効性を来歴や特徴などから語る事だ。
前者は非常に面白い。
レオナルドの最高傑作、モナリザの科学鑑定もしたフランスの調査チームの鑑定結果は限りなくレオナルド作を指し示している。
最大の論拠がダヴィンチの指紋が発見されている事だ。しかし、聖ヒエロニムスから発見された指紋との一致が、即証拠となりえるのだろうか。
聖ヒエロニムスも来歴ははっきりしておらず、疑い様のない画風からダヴィンチ作とされている。
指紋から確定したのではないのだ。
パスポートの指紋認証が中国人に単価100円で突破されてしまう時代。指紋は確定的な証拠になるのだろうか?
そして、この作品の来歴もまったくの不詳。
それどころか、これを売りに出した人物(女性)の素性さえはっきりしていないのだという。
あやしくはないか?
また、画題や技法の解析ではダヴィンチの同時代人がこういう形態の作品を残しており、その人物とダヴィンチの交流を暴いている。
が、これも証拠としてはちょっと弱い。強引なのだ。
個人的には、100%のダヴィンチ!とはいえないと思うのだが、そこは読者おのおのの判断に任せる。
ミステリー本みたいなものなのに、一読者が判じるのも興ざめでしょう。
それはさておき一番興味深い点は、この作品が羊皮紙に描かれており、さらにはこれが羊皮紙本からナイフで切り取られた一葉であることが左端の製本の糸穴からわかっていることだ。
書籍自体に来歴を示す具体的な証拠があるなら切り取る必要はないのでは?というのがこの絵の真贋の答えだと思うのだが。
本の来歴がわかれば、証拠の補強になることは確実だからだ。
本物のダヴィンチの掘り出し物。そんなものが本当だったらいいな、とは思うのですが。
科学鑑定に興味のある人は、買って損のない一冊です。