武装一般市民のアメリカ
★★★☆☆
アメリカにおいて,不信と銃は切り離せないものだというのが本書を読むと分かります。
銃を保有する市民へのインタビュー集で,ニューヨーク市民,ニューメキシコ市民,ストリートギャング,マリッシャ(民兵)を対象に取材が行われています。
発行は1996年で,ニューヨークの治安の向上以前,911以前のアメリカの姿が浮かび上がります。きっとある程度,銃に関する意識は発行後変わってきているのでしょうが,武装する理由は今も通じるものなのでしょう。
歴史の中で銃を用いて自由を獲得してきたがために銃を手放せないという主張も中には見られますが,圧倒的に銃所持の理由は不信と不安です。
ストリートでの無法に対する手段,政府の抑圧への抵抗の準備(テロではなく自衛として)。
皆積極的に銃を手にし,銃に愛着を持っているので,本の題名は
俺たち銃を捨てられない
ではなくて
俺たちは銃を捨てない
の方がよかったのかなぁと思いました。
捨てられないという言葉には,捨てようという意思がありますから。
銃を持てば「自由」を感じるアメリカ人のエトスを理解できる!
★★★★★
いっぱい、レヴューが書かれているものと思っていたのに、私が一番乗りであったか。なんだ、みんな、わかっていないな。
本書は、単なるアメリカの暴力や銃犯罪のルポルタージュではないです。著者のカラダを張ってのアメリカをかけめぐっての取材は、もっと本質的なことを教えてくれます。私は、本書を読んで、初めて、アメリカ人が銃を持つときの気持ちが腑に落ちた。あ〜そうか、だからアメリカで銃規制なんか不可能だ、そんなことしたら、アメリカの建国の理念を踏みにじることになりかねないんだと理解できた。
マリッシャ(民兵、一般市民の武装集団)を、日本で初めて一般にわかりやすく紹介した本書の功績は大きい。アメリカの独立戦争は、武装した市民である民兵によって成就された。まあ、ほんとうは援軍のフランス軍という国家の常備軍の武器とプロの軍隊の力が大きかったわけだけれども、一応、アメリカの建国の歴史においては、「民兵」というアマチュアの力の結集が、英国の正規軍に勝ったということになっている。でもって、市民が猟に使用するライフル銃が民兵の武器でもあったんで、現代の民兵たる「全米ライフル協会」は、頑固に「ライフル」を組織名に掲げている。彼らは、暴力肯定組織なんかじゃないよ。まあ、「対抗暴力=正当なる自己防衛暴力}は肯定してるかもしれないけれど。
つまり、アメリカ人にとっては、銃を市民が持てるということは、自分は、かつて植民地を圧政下に置いた正規軍を持つ政府に抵抗して立ちあがった市民の末裔である、だから、いざとなれば、自分の平等と自由と幸福の追求という権利を他者や権力が侵したときには、銃を持って抵抗するぞって、ことを意味するのだ。この本は銃を所持する草の根のアメリカ人の心を生き生きと伝えてくれる日本人による最初の活きのいいノン・フィクションです。カッコいいなマリッシャって。「刀狩り」で武器を奪われた歴史が長い日本人の庶民が忘れてしまった精神が、そこにはあるんだ。
アメリカの銃文化の思想的歴史的背景を、ちゃんと知らずして、現象面だけで、「アメリカは病んでいる」とかきいた風なこと言うのは無知なだけということを、本書によって私は知った。こういうアメリカ人の精神は好きだな。アメリカ人とアメリカ政府は違うもんな。