「人間が蒐集するのはつねにその人自身である」
★★★★☆
本書は個別に発表された七本の論文に加筆を施しまとめたもの。
「本書のタイトル『レンブラントのコレクション』から読者諸賢が内容についてまず
想像されるのは、レンブラントがどのような芸術や事物を蒐集したのか、その中味と
蒐集のプロセス、さらには蒐集活動の社会的背景を描き出したもの、ということかも
しれない。もちろんこうした点も論究しているが、わたしの関心は、むしろ、
レンブラントのコレクション活動の持つ自己言及性に向けられている。……レンブラントの
コレクションについて探求するとは、かれの芸術観を語ることにほかならない。……
本書はレンブラントのコレクションと自画像に共通する熾烈なまでの自己成型の
取り組みに光をあてて、芸術的競争によって新しい芸術を創造していこうとした
画家の姿を描き出す試みにほかならない」。
豊富な引用と参考文献に支えられて、極めて安定的な考察を提示した一冊、
もちろん主観的な絵画印象に関する論争の余地はさまざまあろうし、「自己言及
self-reflexivity」というよりは「即自-対自」の方がボキャブラリーとして格段に
正確で、「近代」を体現した画境によりふさわしく思えたりはするが。
個人的なハイライトは「第三章 メランコリーの画家」、彼の自画像に射した
陰影の中に「メランコリー」を見出す議論。影とはすなわち光の表現する全能性に
よって抑圧された生の象徴に他ならず、「知識人の孤独」よろしく、生とは
まさに「メランコリー」の換言、ゆえに自らの顔に陰影を刻みつけることは
無上の「自己成型」の試みとなる。
たとえ学術的な表現に疲れることがあったとしても、269点にものぼる口絵の
おかげで、さほど飽きを感じることなく読み通せるのではなかろうか。
タイトルは適切か
★★★☆☆
この本のタイトルを見てレンブラントのコレクションの形成の歴史。その一点一点の詳細な解説と思い読んだが全然違った。もちろん他のレンブラントの本に比べてコレクションに対しての記述は多いが、殆どは特定の絵画に重点を絞り、そこから話を広げていく美術書なので誤解せずに購入した方が良い。特に「ダナエ」(エルミタージュ美術館)、「ブルジョアに扮した自画像」(グラスゴー:バレルコレクション)、「宮廷人に扮した自画像」(ロンドン:ナショナルギャラリー)、エッチング「貝殻」、「ふたつの弧のある自画像」(ロンドン:ケンウッドハウス)は章もしくは節を使い詳細に解説されているので、これらの作品を深く理解したい人には特にお勧めです。図版も269点と充実し、関連作家の作品などはめずらしい物が多数。巻末にはレンブラントの財産目録、年表、、註、索引も充実している。