彼も彼の数多くの作品のひとつです。
★★★★☆
Salvador Dali、並びかえれば'Avida Dollars’(スペイン語で「ドル亡者」)。
本書の原題は“Dali & I: The Surreal Story”。
その筆者たる“I”は、しがないチーズ工場従業員からゴシップ・ライター、そうして
気づいてみればダリ専門のアート・ディーラーに。「サルバドール・ダリの作品は
1970年から1975年のあいだ、年平均25.94パーセントの値上がりをしています」との
決め台詞を駆使して、マネー・ロンダリングを目論む顧客を巻き込み富をせしめるも、
その贋作を売り裁いた廉で裁判にかけられ、罪を逃れるべく辿りついた異国の棲み家、
その隣人はなんとダリ!
そんな「ダリと私」の数奇で奇妙な物語。
「贋作づくりのほとんどにダリ本人が加担している。……ダリは人生の半分を、美術界を
欺くことに費やしました。美術界を欺きながら、自分がそうするのは、自分の作品の価値が
結果として急騰するのを見たいからだと公言してはばからなかった」。
「白い紙にサインするだけで50万ドル」――そんな稀代の詐欺師の引力ゆえだろうか、
なにせ本書に登場する人物からそのエピソードから、何もかもがただひたすらに胡散臭い。
「きみ、ぺてん師よ、この世にはひとつとして真実はなく、ひとつとしてうそはない」。
何が事実か、何が虚偽か、と問うことは本書ではあまり意味をなさない。真作と贋作が
境界を失ったダリの磁場においてはそんなものは吹き飛ばされて、すべてはsur-real、
すなわち現実の向こう側で展開されることとなる。
シュル・レアリスムを志向する彼の最高傑作とは、実に彼の生涯に他ならない。
金にさえなればそれでいい。
面白ければそれでいい。
ダリの美術史的位置づけとかそんな高尚な話はいらない。
世のすべてのスキャンダル好き、ゴシップ好き、東スポ好き必見の怪著。