文庫で、従来省略されていたカーナボン卿の姉の筆になる「故ロード=カーナボンの伝記的な素描」が追加されましたこの(上)に入っています。これが面白い。坂田靖子の漫画を思わせるような「変わった英国人」の肖像であり、いままで翻訳されなかったのが不思議なくらいです。最後に詩がついているのもいかにもイギリス的です。
第1章「王と王妃」の末にツタンカーメンの未亡人の計略がヒッタイトの都(トルコ中央部)からでた文書をもとに紹介されています。未亡人は、ヒッタイト王の王子と結婚しエジプト王位を提供しようと手紙を送りました。この計略は失敗したらしく、重臣アイが次のエジプト王となったようです。ツタンカーメン逝去直後に起こったこの陰謀はとても想像力をかきたてるものがあります。このエピソードで「碑板」と翻訳されている言葉は「粘土板」と訳したほうがいいでしょう。概して達意の訳で読み易い文章で、ありがたいのですが、ときどき不適切な訳語があります。
私はツタンカーメンの墓は「盗掘されていない」と思っていたのですが、この本を読むと、埋葬後あまり経たない時代に2度侵入されていますが、ひどく盗まれたれたわけではない、というところのようです。少なくとも奥の部屋は無事だったようです。その後厳重に封印され、偶然そのうえに作業小屋などが建てられたためか、3000年以上乱されなかったということらしい。したがって手前の2部屋はかなり乱されています。