翻訳に感謝
★★★★☆
ハネカーの評論で知って以来、読もうと思って原書初版を入手してはいたものの、私の貧弱なフランス語では歯の立たないところが多く、部分的にしか読んでいなかった。フランクフルトの章は、なんとか読んだという程度である。この翻訳は労作として歓迎したい。
前半の三つの教会は、カトリックの象徴・儀式・慣習の問題が多く、ちょっと取っつきがたいところもある。ただ、豪華本にしかなかったジュアス作のエッチング挿絵が、縮小されているとはいえ複製されているのがありがたい。
後半はずっと面白い。一見独善的な印象のあるユイスマンスだが、当時の最新の絵画研究書や論文を緻密に読んでいることが伺われる。
現在ではロベール=カンパンだと推測されているフレマールの画家の、他の作品として挙げている「ソムゼ・コレクションの聖母」は、現在はロンドンナショナルギャラリーにある。いわゆる「火よけの聖母子」である。これは注釈があったほうが親切だった。
巻頭のフランクフルトにある「若い娘の肖像」のカラー図版は、色あわせに問題があるようで残念だった。