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スクラップ・ギャラリー 切りぬき美術館

価格: ¥26
カテゴリ: 単行本
ブランド: 平凡社
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幸せな忘我の時間 ★★★★★
 金井氏の好きな絵画やオブジェの写真を集め、エッセイをちりばめた本。
 目次を眺めると、知らない画家も多いが、“オーギュストの息子のジャンの映画を見て、彼の書いた美しく楽しく、あふれんばかりの陽光のような幸福感に満ちた、(略)画家の伝記『わが父ルノワール』を読まなかったなら、オーギュスト・ルノワールの絵に興味など持ちはしなかったと思う”と書く金井氏が映画「草の上の昼食」を見たのちには「若い女と犬」を“荒い筆のタッチで描かれた草むらには夏のそよ風がさっと吹き渡り、アリーヌと犬は、かぐわしい草の匂いを、静かにうっとりと吸い込んで幸福な溜息をついているのに違いないのだ”と褒め讚えるように、この本を読んだあとで好きにならないでいられる画家がいるだろうか。
 エドワード&ナンシー・キンホルツのカー・セックスが主題のオブジェ「バック・シート・ドッジ'38」は「くずれる水」の繰り返し現れる列車のシーンを想起させるし、“幼稚な好みを反映してトラと猫と犬の絵が目立つ”と金井氏自身が言うように、次々に登場する“奇妙な動きを秘めた静かさが圧塗りのニスの艶々した透明な被膜に堅く閉ざされた”モリス・ハーシュフィールドの虎や“柔らかくすべすべした毛皮や独特な形態を持つ猫性が、永遠のものとして飼主であり描き手の画家の愛情に包まれた”長谷川 二郎の猫は、もちろん金井氏の愛猫トラーを思わせる。
 もともと好きだったフェルメールも、もとは好きじゃなかったゴヤも、もとは知らなかったデュフィも、魅惑的なエッセイですっかり好きになってしまう。この本を眺めていると、知らず知らずのうちに時間が流れていく。それでいてエッセイを読むと、自分は一体どこを見ていたのだろう、と呆れてもう一度絵の頁に戻る。幸せな忘我の時間だ。
知的でスリリングな本を読みたい人にお勧め。 ★★★★★
「一枚の繪」に連載されていた頃、何回か買って読んだことがあるのですが、今回まとめて読んでみて、改めて知的興奮を味わいました。ゾンネンシュターンやデュフィのような全く知らなかった画家たちを知り、バルテュスのように絵や逸話を少ししか知らなかった画家たちについて詳しく知ることができ、アンジェリコのような画家たちの絵の観方が変わり、それもたいそう楽しいことでしたが、それ以上に、頭の良い人の、緊張感のある文章を読むのは気持ちがいい。「こんな知的で硬質な、しかもけして難解でない文を書ける人がまだいたんだ!」と、今更ながら気づきました。知的興奮を味わいたい方に、お勧めします。絵や映画の観方だけでなく、あなたの日常が変わり始めるでしょう。頭の中がデフラグされますから。
そういえば、紹介されている絵の中に、度々猫がいるのですが、これはあの「トラー」の影なのでしょうか?「トラー」はどうしているのでしょう?