岩波文庫には四部作を要約した「ヨーロッパのキリスト教芸術」があるが、概説なので見通しは良いが、マール流イコノロジーの魅力はほとんど味わえない。もし本当に中世芸術について知りたければ、やはりこの原典を読むしかない。
中世の教会にあるステンドグラスや浮き彫りなどになっている様々な題材についてのお話が次々に語られる。こうした中世芸術は啓蒙主義の時代に破壊されたりしており、その由来はすっかり忘れ去られていた。その由来をマールは過去の文献から実証している。実際に長い間、別の人物だと誤解されていた彫像を、文献をもとにして実は誰であったかを解き明かしている。その時に重要なのが、その人物の姿や持ち物。そうした象徴からその人物が当時は何者であったかを探り当てている。こうした推理小説さながらの推論はもちろんのこと、さらに面白いのはその象徴にまつわるお話。要約版では分量の点から割愛されたこのお話こそが、この著作の最大の魅力でもあるのです。さりげなくあるような芸術作品に、こんなにも豊かなお話が隠されていたことにびっくりするはずです。
もし要約版で満足しているとしたら、それは大きな勘違いです。ぜひ、マール渾身のこの作品を読んでみてください。そのときこそ、中世芸術の本当の魅力が理解できるようになるはずです。