本書は、こういったコンピュータ社会の問題のなかでも、特に子供たちの教育とコンピュータの問題にフォーカスしている。文部科学省が数百億円を投じて力を入れている「IT教育」では、その中心としてパソコンを使った学習が推奨され、小中学生のうちからパソコンが使えるようにするという教育が推し進められている。
著者は、こういったIT教育には効率的な学習ができる反面、さまざまな落とし穴が隠されているという。IT教育先進国のアメリカでは、巨額を投じて学校に導入したコンピュータシステムを、常に最新のものに維持するためのコストの問題をはじめ、さまざまな問題が噴出しているという。なかでも子供たちに対する「教育の質」は重要な問題だ。コンピュータを操作できることと、理解力や創造力の発達は別の問題で、コンピュータで問題を検索することはできても自分の頭で問題を考えることができない子供たちがアメリカでは実際に増えているという。
コンピュータは「目的」ではなく、なにかをするための「手段」でしかないという当たり前のことが忘れ去られ、コンピュータを使えることが教育の目的であるかのようになりつつある、現在のコンピュータ社会と教育現場に鋭く問題を提起した1冊だ。(近藤大介)