奇術の思い出、天海の教え、味わい深い
★★★★☆
奇才、泡坂妻夫(厚川昌男)氏の作品集。
ミステリー作家、泡坂妻夫氏は
古くからアマチュアマジシャンとしてもよく知られている。
奇術を扱った著作も幾つかある。(特に「魔術館の一夜」は、絶品!)
本書はマジックのクリエーターとしても名高い、氏のオリジナル作品集だ。
カード、コイン、ロープ、(リンキング)リング、パズルの5章に分かれている。
カードの章では「天海のフライングクイーン」が、印象的だった。
挑戦的ではなく、演者自身が現象にとまどう、という演出に、
(石田)天海氏の影響を見るような気がする。
「整理好き」という作品は見事なまとまりをもった佳作。
コインの章は、本書の中ではもっとも最新の作品が含まれている。
著者考案の技法「MAパス」(マッスルパスに似ている)を基本においた作品が主だ。
ロープの章では長めのユニークな手順を紹介。
リングの章は本書の中でもっともページ数を割いているが、
私はこのマジックにもともとあまり関心が無いので、
どう評価してよいものか、わからない。
パズルの章には小品が2つ。
コインをのぞいて全体にかなり昔(1960年代とか)に考案・発表されたものが多く、
特にカードマジックなどは、発表当初は
さぞかし斬新なものであったろうとうかがわれるが、
今日の目で見るとさすがにちょっと物足りないかな、という気もする。
泡坂氏の奇想が生んだマジックの作品もさることながら、
断片的に書かれている、若き日の厚川氏の奇術に関する思い出話や、
伝説のマジシャン故・石田天海氏から受けた教えといった内容が
私にとっては非常に味わい深かった。