労働運動再生の決め手
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本書は衰退が止まない日本の労働組合の再生を展望した本です。
本書において著者は戦後労働運動の衰退は、年功賃金と終身雇用制による企業社会がグローバリズムによって激しく変化したこと、そして労働運動側の企業主義と政治主義にあると述べています。グローバル化によって競争原理が隅々にまで行き渡り、もともとあった企業内での労働者の競争に加え、企業間での労働者の競争が形成され、2重の競争の巻き込まれてしまっています。これは「企業同士の競争に労働条件の切り下げで勝ち抜いてはいけない」という産業別労働条件規制が欠如しているからで、産業別労働組合による産業別労働協約がないことが原因です。
従来の企業社会を構成してきたのは、企業に依存しないと生活が成り立たない非福祉国家と企業福祉であり、その企業依存による自動的な賃金向上によって労働運動が不必要とされてきました。しかし90年代以降、膨大な非正社員化によって年功賃金から除外され、企業依存の生活構造が解体された階層が形成されます。著者はこの新しい階層と階級社会化に注目し、労働運動の舞台の転換を主張します。
日本の労働組合は企業ごとに強制的に組織されるのが特徴であり、それが活動性の低下と、産別の強化と未組織労働者の組織化、産業別労働条件規制を阻んでいます。著者は単組内での企業横断的組合活動家の育成によって単産機能の強化を、単組外に未組織労働者の受け皿として個人加盟労働組合を設置して組織化をすすめ、将来的に単産を統一していくという構想を掲げています。
本書は他にも格差社会の分析や階級社会化のプロセス、労働組合の歴史や戦後労働運動の変遷など、労働運動をラディカルに再考するための資料が豊富に揃っています。サブタイトルにあるようにまさに「21世紀労働運動原論」というにふさわしい内容になっています。労働運動の衰退を止め、その社会的意義にふさわしい発展を回復するためには、本書は外せない一冊です。
21世紀労働運動の展望を示す良書
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「21世紀労働運動原論」という副題の通り、今後の労働運動のベースとなるべき本。
企業社会統合のもとでの企業別労働組合という歪んだユニオニズムの問題を摘出し、企業社会統合が崩壊しつつある現在の階層社会に新たなユニオニズムを展望する。とくにすばらしいと思ったのは、同一労働同一賃義をフェアネスの問題として捉えるだけでなく、労働市場全体を規制するユニオニズムという新たなアソシエーションのありかたと結びつけて捉えられているところ。他にも、労働運動の歴史や論争が手際よくまとめられており、非常に参考になる。
現在、非正社員による個人加盟ユニオンが登場してきているが、研究者のみならず、そうした実践に関わる人も参照すべき良書だと言えよう。