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税制改革の渦中にあって

価格: ¥2,376
カテゴリ: 単行本
ブランド: 岩波書店
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赤字国家における孤独な悪役と我々の責任 ★★★★★
 赤字国家における汚れ役である税制論議の最前線において、年に50回以上の会合を6年間にわたり何と無報酬で行ったという著者による回顧録である。シャウプ勧告に始まるわが国の税制の歩みを学者として熟知しているのみならず最前線の税調で働いた著者ならではの包括的な話が多く、かつ専門的な難しい話ではないので、税制についてこの国がどう歩んでどこへ行くべきかについての良い入門書とも言えるであろう。
 最も読み応えのあるのが3・4・5章。3章は2005年にマスコミと政治家の集中砲火に会った「個人所得税に関する論点整理」とその後の顛末である。「消費税は増税しない」と公約した小泉政権下で、所得税を経済環境の変化に合った総合的な再編を目指すというガイドラインが、趣旨を引用されることなく「サラリーマン増税」という耳あたりのよく何の意味もない言葉にすり替えられてマスコミの大バッシングに会い、都議会議員選挙前の与党にまで攻撃された。税調の言い分を正確に報道したのは、記者会見の翌日のイギリスの雑誌であったというのだから著者の落胆のほどが知れる。次の章のタイトルが「政治的にタブー化した消費税」であるが、論点整理に対するバッシングの大きさを見るに、タブー化したのは実は所得税なのではないかと思う。著者が述べるように、今後あるべき基幹税は所得税と消費税であるが、昨今の情勢は後者のみが辛うじて社会保障財源として復権しつつあるに過ぎない。格差社会の中で、累進性や資産課税との組み合わせで自由度の大きい税がこのように葬り去られたつけを、我々は今後負わねばならないのである。
 4章は消費税の話である。導入を試みるたびに、タイミング悪く生じた汚職事件と一緒くたにされてマスコミのネガティブ・キャンペーンに会い、事業者の反対に会い、宰相も嘘をついたり深夜の会見で不信を買い、と、人災の続いた税であったことが赤裸々に語られている。特に、竹下・宇野内閣のもとでの国会の攻防のくだりは、大げさに言えば「手に汗にぎる」ものである。ねじれ国会、人気取り政策の野党、スキャンダルで人気を落とす与党、と、現在(2009年)と同じ構図であるが、もし、このときに消費税が葬り去られていれば、バブル崩壊後に消費税が導入の目を見るのはますます困難であったであろうし、そうなれば財政不安定や財政赤字の問題は更に深くなっていたであろう。また、当時消費税に猛反対した野党の政治家の多くが、今も国会議員であるが、世は安定財源としての消費税を社会保障財源として活用する方向に議論を動かしている。喉元すぎれば、議論も報道も変わるのだということがよく分かり、長い視点から見たインフラ整備がどれだけ大切かということが分かる。
 5章は所得税の話である。制度・歴史に関する詳しい話が出て来るが、学者および税調会長としての著者の所得税への思い入れが伝わる。要は所得税がいかに大きなポテンシャルを持っていて、制度変更がいかに難しかったか、というところに尽きる。三位一体改革においては住民税「委譲」に伴う所得税のブラケットの再設定という地味な役しか与えられず、政治的妥協の産物である所得譲与税、ふるさと納税などに批判が向けられている(前の章では地方消費税の問題点を述べている)。地方税の管轄は別の省(委員会)なのであろうか。
 税制調査会は、赤字国家における孤独な悪役である。増税を口にせねばならないたびに、「まず歳出を減らせ」と管轄外の批判にさらされる。汚職やスキャンダルがあればひっくるめて報道されて潰しにかかられる。意思決定の体系(歳出改革や地方分権との連携)・報道姿勢・与野党の緊張感など、よりよい税制のために必要なことがわが国では足りていないことが本書を通じて痛感させられる。何より国民が税制に関する理解を深め、長期的な選択肢を理解し、冷静な目で選挙などの機会で能動的に行動することの重要さを本書は問おうとしており、この問題の入門書としては本書に勝るものはない。
公職から解放されての本音ぶちまけトーク、でも正論。 ★★★★☆
6年間にわたって政府税制調査会の会長を務めてきた租税・財政学の大家による、これまでの税制改革議論を綴った回顧録。著者はその司馬遼太郎然とした風貌からこれまで冷静沈着なイメージがあったが、公職から解放された安堵感と鬱憤からか、本書ではそれまで聞かれなかったような凄まじい弁舌が並ぶ。曰く、「増税請負人と揶揄されようが、言うべきは言うのが政府税調の役割」「少子高齢化と未曾有の財政赤字の前では、もはや増税は不可避」「将来世代のためにも、負担増から逃げるな」「これまで国民や政治家が負担増に向き合わなかった結果が、今日の財政赤字の山だ」「経済成長や歳出削減だけで赤字が消えると思ったら大間違い」「マスコミは本質を正しく報道せよ」「政治家は覚悟を持て」「政治家を選ぶ国民の目こそ問題だ」etc──けだし正論である。賛否両論は当然あろうが、多面的な税制改革議論のためには、是非とも押さえておきたい論点ばかりである。それにしても、こうした議論を公職在任中に提起しても「サラリーマン増税」などと曲解して報じる辺りに、わが国のマスメディアの病巣が覗える。現在の年金改革議論においてもまた然り(汗)。
渦中から脱出後の肉声 ★★★★★
 長年政府税制調査会会長を務めた石弘光氏による回顧録。
 納税に喜びを感じ、課税を喜ぶ人間は極めて少数と思われるが、社会の仕組みとして、一部の産油国等を除けば、税金は避けて通れない問題である。
 極めて政治的争点になり易い「税」を扱う政府税制調査会は、政界からもマスコミからも注目度と被圧力が高いが、その「渦中」から平場に降りた石弘光氏の論集である。
 小泉内閣により力を増した経済財政諮問会議により議論に枠をはめられた以降の政府税制調査会は、やや力を減少させたかの印象を受けるがいかがであったのだろうか。
 多くの利害関係者とその応援団が控え、動き回る利害調整の現場からの「渦中にあって」である。
 結局、如何なる税制を選択するかは、国民の選択による以外に無い訳だが、国家の全体像と将来を見通しながら現在の税制を構築する作業に、参加し得る能力を国民と政治家に求めることは可能か?こんな問いを発したくなる読後感である。
 「負担の公平性・平等性」を如何に担保するか、あるいは重税感・担税感を減少させるか。時代状況・経済状況を背景に絶対的な答えの無い問いへの、石弘光氏からの肉声を含む回答といった趣の一冊です。