リアル・オプションという言葉を耳にしたことはあっても、オプション理論をどうやってプロジェクト評価に使うのかは想像がつきにくい。この本は、追加投資や中止などを個々のオプションとして数値化するというリアル・オプション分析の概念から、具体的な計算事例と導入時の注意点まで解説している。なお、NPV、WACC、ボラテリティ、コンパウンド・オプションといった専門用語が多用されているので、この分野にあまり自信がない場合は、3章、4章の用語解説をまず精読する必要がある。
多くの分野で用いられる従来のNPV法では、その時々の状況に応じて追加投資や中止などの変更が可能なプロジェクトの価値を知ることはきわめて困難であった。特に、何回も見直し可能であったりすると、判断はカンに頼るしかなかった。リアル・オプション分析なら、それが可能である。長期にわたり多くの特約を付ける航空機の販売契約や、各フェーズで対応を選択していくような新薬開発プロジェクトにも利用できるのである。2章で、顧客に一定の価格で商品を購入する権利をタダで与えてしまっていたエアバス社の例が出ているが、同様の事例は当事者が気づいていないだけで現実に多く存在すると推察される。
また本書は、マニュアルとして使い込むことを前提として書かれているため、図、表、計算例、スプレッドシートの入力例が多く、本を片手に自分のプロジェクト評価を行ってみることも容易だ。各章の終わりに練習問題もあるので、企業や大学で教科書としても利用できる。さらに、8章で導入のためのプロセス、9章では困難が予想されるボラテリティの推計について解説があり、マニュアル的な工夫を凝らしている。(河野幸吾)