このような本の出版は、ひとつの啓示
★★★★★
日本にとってドイツはお手本のような国であったし、農業という重要で難しい問題をテーマにしている本書は読みたくなる本です。興味深い本です。
農業は工業に比べ生産性の上では不利です(無理を言っちゃいけません)。また、特殊な条件・やり方でコストを下げている諸外国(米国や豪州など)から自由化をせまられると不利です(無茶言わないでといえないところが苦しい)。
ドイツは大規模化、過剰生産で対抗したようですが、裏目に出たようです。農産物の過剰、大量の化学肥料による土壌の劣化、過放牧による糞尿等による環境悪化、ついには地下水の水質悪化にも。ドイツは、過剰生産を減速し、土壌改善と水質向上のためオーガニック農業の奨励へ切り替え、農家への直接支援にも手を打ち、さらに、総合政策として、グリーン・ツーリズムを推進していったとのこと(細かく縦割りした日本の行政では難しいと思いますが)。それによって、国民は農業によって築かれた美しい景観の中で安らぎを得るし、農家は副収入を得て農業環境の維持・保全ができるようになった。
「農業を国の道徳の規範とし、自然環境を国民の財産と位置づけ」、系統的・合理的な施策を重ねているドイツのあり方は日本にも、お手本になると思います。
思ったのですが、日本の大学生が、夏休みの期間を涼しい高原の農家に民宿して、朝夕の田園散策と思索の日々を送るだけでも素晴らしいと思います(私も経験があります)。
本書は、鈴江さんの学位研究を母上の支援もあって出版されたようです。このような本の出版は、ひとつの啓示ではないでしょうか。派手なタイトルと、安直なつくりの本が氾濫しています。それは長い目で見ると自殺行為になるような気がします。読むに値する本も併行して出す、させるような仕組みを考えるのも必要だと思いました。
新たな視点でグリーンツーリズムを探った一書
★★★★☆
最近よく目にする博士論文の書籍化版のため、内容がやや堅苦しい感は否めないが、系統立てて論考されており、研究者・学生でない自分でも、それほど抵抗感なく読めた。
とくに立地条件が異なる6農家へのヒアリング調査とその比較分析を行った第3章では、グリーンツーリズムに参画する農家の経営実態(個別の経営努力)が浮き彫りにされており、定年後に帰農を考えている自分には、大変参考になった。
グリーンツーリズムにおける民と官の連携、著者がいうところの推進構造(表題ではダイナミズムとなっていた)に迫った点も、ドイツ同様、農山村地域の振興で大きな課題を抱える日本の農業に何らかの示唆を与えているのではないか・・・上製本という本格的な本づくりながら比較的安価である点も評価したい。