思い込みはどこまで本当か
★★★☆☆
常識っぽいものは一度定着してしまうと中々払拭されないものである。この本は、経済に関連した思い込みを打破するために書かれている。
「日本は公務員が多すぎる」という意見には、人口1000人あたりの公務員数は日本が先進国中で最も少ない部類に入ることを説明している。マスコミや政治家は役人を叩けばウケが良いから官僚叩きをするが、本当にこれ以上減らして大丈夫なのかと疑問を呈している。
「日本の労働生産性は低い」と言う意見もあるが、アメリカの労働生産性が高くなったのは従業員解雇のためである。
「労働人口が減るから外国人労働者を1000万人受け入れよう」というアホな議員もいるが、養う人口も減るのだから、一人あたりの所得は変わらないようにすれば良い。国家としてのGDP順位を意識する必要は無い。
その他、「不況対策にバラマキは効果がない」、「公的年金はいずれ破綻するから保険料は払い損」、「インターネットの集合知を活用すれば未来は明るい」など、世間に流布している説を否定している。
著者の説が全部が正しいとは限らないかもしれないが、毎日繰り返し報道される適当なニュースの断片だけを鵜呑みにしない必要性は感じた。
日本で稀な超良識派
★★★★★
著者は経済を語る人物の過去の発言を含めていかにデタラメな論が多いかを指摘する良識なレフェリーだと思う。しかし「デタラメ2」のアメリカの30年代の大恐慌についての評価は疑問。東谷は「34年には財政赤字が29億ドル、36年には31億ドルで2億ドルの伸びでしかない、したがってルーズベルトはケインズ主義者ではない」、としているがこれはテミン=ローマー論文の間違った解釈であり、歳出の裏側にある歳入、つまり税収の急拡大により赤字が拡大してないだけである。実際同時期に65万マイルの高速、12万本の橋、12万の公共施設、8千の公園、850の空港が建設され、同時期のアメリカの銀行全てを足したのバランスシートをみれば、公的部門信用のみが急増してマネーサプライを支え、また所得税申告も増加していた。まさに大きな財政出動があったのだ。(これに関してはR.クーの「陰と陽の経済学」の3章を)
「デタラメ6」にも違和感あり。「上げ潮派」批判の文脈で日本の累積赤字は「90年代の財政出動だ」とし、さらに消費税必要論を展開している。累積赤字は「短期的継続的な財政出動を行わなかったゆえ、税収減が長期に渡ってしまったこと」が最大の原因。これは貞廣の「戦後日本のマクロ経済分析」でも実証されているが、こっちのロジックの方が納得できるはず。
本書で読ませるのはデタラメ9〜30までの時価会計、株主重視経営、民営化礼賛、公務員の数、医療、所得格差、燃料電池、水資源、労働生産性、IT・ネットワーク、そして岩田規久男の「米系エコノミスト鵜呑み解釈」と「その経済学に向いてない人間性」が最後の章で暴露される。実に発見のある新書だった。最後にPHPから出た著者の近著「世界金融崩壊七つの罪」も非常におすすめです。
その「デタラメ」誰が言ってるの?
★★★☆☆
グローバル化に否定的な視点から、政治経済における妄説を論破する、という舞台設定。30のデタラメ自体にはおおむね誠実に答えているが、設問自体が??というものがいくつかある。「世界経済はユダヤ人が支配している」って、まともな人でそんなことを言う人いるの?政治学者ダールの定義を持ち出すまでもなく、「政府、金融機関のユダヤ人が結託して…」なんて陰謀論は一蹴されるものだと思うが。「世界的に比較して日本は公務員が多い」という誤謬ももはや信じている人は少ない気がする。また、「(某)新聞が『国有資産100兆円売れる』と煽ったが100兆円売ったらデフレが加速するだけ」と言うが、その新聞、最近「資産計上されてるけど、川や港なんて売れる訳ない、さっさと消費税上げろ」と言ってたが。「デタラメ」の出典や「デタラメ」を主張する根拠を明示しないと、著者のシャドーボクシングになりかねない。「〜と主張する人が少なくない」というなら、明示するのは簡単だと思うが。
思い込みと事実の検証
★★★★★
マスメディアの報道を信じ込んでしまうことって多くないですか?
著者は、思い込みの多い30の事例を挙げながら、自分で考えることの重要性を説いています。
たとえば、「今の不況は構造改革を後退させたから」
本当にそうなのでしょうか?
著者の示す論拠が正しいとは限りませんが、メディアの報道を疑い検証する助けにはなるでしょう。
思い込まず、信じ込まず、自分で考えること
当たり前のようですが難しいことですね