『パワーエリートの本当の話』
★★★★★
移り変わりの速い経済の書物を推薦するからには、まず執筆された時期・著者の略歴・対象について述べることが大切であろう。それらについて少しスペースを使わせて頂きたい。
執筆されたのは今から11年前の1996年である。したがって「バブル経済」が終わりを迎え、反省や回顧が現れ始めた頃である。著者のR.ターガート.マーフィー氏は少年時代を仙台で過ごし、アメリカで学業を修め、日本で国際金融に携わっていた「元銀行マン」である。したがって、日本の金融慣行やアメリカのシステムについても詳しい人物である。
対象としたことは―つまり本書の内容でもあるのだが―、1日本の経済システムを氏の専門分野であった金融部門を通じて、読み解くこと。2日米の奇妙なパートナーシップを専門分野を通じて読み解くことにある。もちろん、主張の核は最終章のタイトルにある『真剣さを取り戻そう』ということであるが。
さて、本書で示されていることは、経済の個別的・表層的分野の解説とはとても言い難い広さと深さを持っている。これが推薦理由である。つまり、状況分析的ではなく「システムのメカニズム」をつまびらかにし、それに基づいて解釈を施してゆくという手法である。したがって、文化論的でもある。
要点は―K.v.ウォルフレンの示す「管理者(アドミニストレータ―ズ)」という集団―が、日本の『インフォーマル』(本書より)な主権者である、ということを出発点とする。バブル経済も、プラザ合意(1985年)後の円高も、米国「双子の赤字」が破綻を招来させなかったことも、である。
このような集団を仮定することは、危険が伴う。それは下手をすると、「陰謀史観」とも言うべき、「なんでもかんでも、インフォーマルな集団が原因である。」という因果論にとらわれやすいからだ。この点、きちんと参考文献を示してあるので、読者は再検討しやすいことと思う。