ネットワーク理論の次のフェーズを示した
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柔軟で変化に強い組織を作る為には、
近所づき合い(身近な人との交流)と遠距離交際(自分とは遠いと思われる距離や分野の人との交流)のバランスが
必要であると筆者は述べている。
ここまでは、筆者の前著『遠距離交際と近所づきあい ――成功する組織ネットワーク』と同様の趣旨であるが、
本書では一歩先に進み、社会システムが進化していく様を、
分出(システムの創出)⇒組織化(組織を形成する)⇒ネットワーク化(トポロジを最適にする)⇒脱分化(不要なネットワークを捨て、出戻る)
の連環であると論じている。
またシミュレーション上のネットワーク理論とは異なり、現実社会の中でネットワーク理論を論じるには、
ノードとノードの間の関係性、信頼を考慮することが不可欠でると筆者は繰り返し述べている。
このように筆者は、本書の中で数学から生まれたネットワーク理論を『実学の』ネットワーク理論に昇華させ、次のこの分野が進むべき道を示した。
ネットワーク理論の実社会での応用を考えている研究者、ビジネスマンにとって本書は必読であろう。
人間関係や組織を変えたいあなたに
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本書のメッセージはシンプルである。複雑で予測困難な世界を軽やかに生きていくためには、個人や組織が孤立せず、外界の他者とつながり、お互いの足りない部分を補完し合いながら、ともに繁栄することを目指そう、と。
トヨタ自動車や防衛調達、温州商人といった多彩な事例を、ネットワーク理論と社会システム論のフレームワークで読み解きながら、絶妙なバランスのネットワークが、直面する課題を克服するための処方箋になりうるのではないか、と提唱する。つまり、点と点の表層的な関係にのみ着目し、各点の属性を考慮しないネットワーク研究が少なくない中で、本書は、各点、つまり感情をもつ個人の関係性に踏み込んだ議論を展開している。
同じ著者が2年前に上梓した『遠距離交際と近所づきあい ――成功する組織ネットワーク』が、400頁を超える本格的な学術書であったのに対し、本書は200頁強とコンパクトである。骨太の議論をわかりやすく記述することに重点がおかれ、幅広い読者を意識した仕上げになっている。
解釈がやや強引との印象を受ける部分や、一般読者にとっては少々難しいのではないかと思われる部分(例えば、後半の社会システム論に関する章)もあるが、「人間関係や組織のあり方を見直したい」「生き方のヒントを得たい」と感じている人や、最新のネットワーク論や社会システム論に関心のある初学者にとっては、最適な一冊だと思われる。