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平家の群像 物語から史実へ (岩波新書)

価格: ¥821
カテゴリ: 新書
ブランド: 岩波書店
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史実から物語へ ★★★★★
平家については、「平家にあらずんば人にあらず」といった夜郎自大で統治能力に欠けた「貴族化した武士集団」と言う知識で過ごしてきた。今回本書に接して、自分のそういった無知ぶりがいささか恥ずかしくなった。
本書は数々の古文書の資料批判を通して、学問的な水準を維持しながら、そこに現れてくる平家の公達たち一人一人を活き活きと描き出している。宮廷の位階官職や専門用語についても一般読者が判るように適切な解説を加えているのが嬉しい。
歴史の構造的部分にも力を入れている。武士社会を切り開いたのは、世上いわれているような源氏ではなく、実は平家であるとし、これに六波羅幕府という名称を与える。また平家王朝設立の企てもあったと書く。確かに平家には、藤原氏の「天皇の外戚」という役割を大きく越えるところがあった。さらに源氏の蜂起が短時間の内に全国に拡大したのは、単なる源平の争いを越えた、律令国家に対する全国規模の内乱であることを示唆する。
より興味深かったのは、頼朝の決起から平家滅亡までに5年かかったのは、その間3年におよぶ大飢饉があったこと、鎌倉幕府の成立の「画期」を頼朝が朝廷から東海・東山両道の行政権を認められた1183年としたこと、平氏が九州で勢力を盛り返したと類書に記される史実が、実は平氏は九州から追い出されたのであり、義仲と休戦協定を結ぼうとしてつかの間の小康状態を得ていたとする部分である。
書名が示すように、著者が最も力を入れているのは「平氏の群像」であり、その中心に惟盛と重衡をおく。二人とも思いがけない大任を担い、その末路は対照的であるが、どちらにも共感を覚える。その他、武士としての意地を貫き通した者、ひたすら右顧左眄した者など、公達だけでなく主要な御家人たち--私が特に興味深かったのは阿波民部太夫田口成良であるが--を網羅しているのも楽しい。平氏の群像は『平家物語』の不確かさを指摘されて一層、現代に活き活きと伝わってくるものがある。
小書ながら読み応え確かな良書である。
多層的な「平家」の人々 ★★★★★
 平清盛は,父忠盛の嫡妻(最も身分の高い妻)の子ではなかったが,白河院の落胤ということもあり,忠盛の嫡子(武家平家の代表)たる地位を獲得した。嫡妻の子は平頼盛であり,清盛との仲はよくなかったという。平家滅亡後,頼盛が源頼朝の庇護の下に生き延びたというのは不思議な気がしていたが,上記を知ると,なるほどと納得できる。
 清盛の長男・重盛も,清盛の嫡妻の子ではない。嫡妻(時子)の子は平宗盛・知盛・重衡らである。重盛死後は,時子の影響力もあり,宗盛が清盛の嫡子たる地位を承継した。
 重盛の長男・維盛も,やはり重盛の嫡妻の子ではない。より身分の高い嫡妻・妾妻の子である弟清経・(清経失脚後は)資盛が重盛の嫡子たる地位を得た。維盛も資盛も,重盛死後は平家の主流派から外されてしまった。維盛のような,清盛の長男(重盛)の長男という立場にある者が,一人平家集団から離れて那智の海で死んだというのも,やはり,上記を知ればなるほどと納得できるところである。
 平家物語を読んでも,平家が一枚岩ではないということは何となく伝わってくると思うが,本書は,そうした平家の複雑な人間関係を簡明に説明してくれる好著であった。