日本人初のピラミッドの本―従来にない革新的なピラミッドへのアプローチ―
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古代エジプトに関する日本語の書籍は少ない。その大半は、一般向けの概説書となり、
邦文の研究書として扱えるものは、同じ古代世界であるローマやギリシアの研究書と比べてしまうと、
ほぼ数えるぐらいになってしまう。
特に、古代エジプト文明において最も注目されやすいテーマ、
ピラミッドの謎については、テレビや雑誌で取り上げられることは多いものの、活字化された本になると、
外国の書籍が翻訳されたものが何冊かある程度である。
しかし、本書は日本人が書いたピラミッドに関する本としては初めてのものであり、
これまでのピラミッドに関するあらゆる議論が上手くコンパクトにまとめられたものになっている。
そのため、古代エジプトファンはもちろん、ピラミッドや先王朝時代から古王国時代を研究したい人にとっては
ピラミッド入門書となり、読んでおかなければ損になってしまうと言っても過言ではないくらい、
是非読んでいただきたい一冊である。
また、ピラミッドはよくメディアで古代エジプトの宗教の視点からその正体について議論されることが多い。
しかし、本書は著者の専門である古代エジプトとメソポタミアといった外来世界との文化影響、
そしてピラミッド以前の古い時代など、多角的な視点からピラミッドの謎について考えており、
広い視野からピラミッドを考えることが大切だと教えてくれる。
それは、歴史の研究はおろか、私たちの普段の物事の捉え方についても、周りが見えなくなって一つのことに
固執してしまう傾向があることに気づかせてくれる。
ひょっとしたら、ピラミッドの謎が解けないことで、様々な可能性を研究者のみでなく、
私たち自身もあらゆる可能性について、期待を膨らましながら自由に想像することができることを考えたら、
謎が解けないままが良いのかもしれない。
以上のように、著書は、ピラミッドについて新たな視点を私たちにたくさん教えてくれる一方で、
私たちにもピラミッドの謎を解く鍵が掴めるかもしれない可能性を問いかけてくれる本である。
答えは一つではない。たくさんあって良いのである。また、次回の続編に期待している。