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逃げろ、ボクサー (角川文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店
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「スローカーブを」の影にかくれた80年代の青春群像 ★★★★★
「スローカーブを、もう一球」の影にかくれた格好にはなっていますが、「スローカーブを」の生硬さがいくぶん和らいだ、粒ぞろいの名短編ノンフィクション集です。

いちおしはやはり大橋秀行を描いた表題作「逃げろ、ボクサー」です。これは「スローカーブを」に収められた「ザ・シティ・ボクサー」(春日井健)から続くボクシングの連作ものとも読めます。山際さんが好んで使うフレーズ「カクテル光線」に、80年代の川崎、横浜、横須賀の夜景と、古めかしい表現ですが彼らの青春群像が、あざやかに照らし出されます。

ほかには現在は東大教授を務めていらっしゃる「ミスター・ボディビル」石井直方さんを描いた作品、男子ソフトボール界のエース三宅豊さんを描いた作品が強く印象に残ります。

作品世界の時代背景はどれも1980年前後。山際さんや、同じ世代のノンフィクション作家と位置づけられる海老沢泰久さんの作品を手にするたびに感じることですが、戦争を知らない世代が坂道の上の日だまりにふっと出てきたような、何ともいえないクールで暖かい空気が行間からこぼれてきます。

山際作品を甘い、という人も確かにいるでしょう。でもその甘さはいまはもう手に入れることのできない、上質の、後味のいい甘さであると僕は思います。
優しさにあふれる山際マジック ★★★★★
山際淳司という作家は、本当に人間が好きなんだな、と思う。
陽の当たる場所で活躍した人を書く時も、そうでない人を書く時も、いつも視線が優しい。
特に葛藤を描く時は、当事者になりきっている。
だから、読み手の心にダイレクトに響く。

表題作の『逃げろ、ボクサー』は、ボクシングの世界チャンプ大橋秀行の兄・大橋克行の物語。
大橋にこんな兄がいたことを私は知らなかったのだが、大橋克行の人間臭さは嫌いじゃないな、と思った。
実際に彼と接すると、また感じ方も違ってくるのだろうが、山際淳司の視線という優しいフィルターを通して接すると、欠点さえも魅力的に感じ、とてもいいヤツに思えてくるから不思議だ。

本書では大橋のほかに、三好泰宏、長崎啓二と田尾安志、カイザー田中、蔦文也と水野雄仁、石井直方、三宅豊の物語が、人間好きのあなたに読まれるのを待っている。