本書はこのユニークな教会堂がどのようにして構想され、設計、施工されたかを丹念にたどったノンフィクションだ。大学院で建築構造学を学び、構造設計事務所で実務を経験した著者の筆により、読者は建築の現場で何が行われているのかを実感することができる。コンクリートの軟らかさが少し違うだけで、どれだけ工程に影響するのか。なぜ建築家はその違いにこだわるのかといったことが、誰にもわかりやすく語られる。また、安藤のラフなアイデアがスタッフの手によって設計図にまとめられ、それを施工業者が工事現場で実際につくっていく過程が臨場感たっぷりに描かれる。
とはいえ、本書が建築の技術面に偏っているかといえばそうではない。1つの建物ができあがるまでには、何人もの人々がさまざまな立場からかかわるのであり、そこには人間くさいドラマが生まれる。安藤と彼のスタッフ、牧師と主だった教会員からなる建築委員会、そして施工業者が互いにどのような会話を交わし、何を考えていたかについての著述も十分な量を与えられている。ストレートにものを言い、次々に大胆なアイデアを発想する安藤という魅力的な人物なしにこの本は考えられないが、周囲の人物もそれぞれ重要な役割を演じている。第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。(松本泰樹)