家族や愛する人を全く突然にこの世から奪い去っていく事故。誰しも自分にふりかかるとは思っていない惨事にいざ遭遇した時に、ひとはどのようにふるまい、どのように考え、どのように変化し、どのようにそれを受け入れていくのだろうか。精神医である著者が時間をかけて遺族に接する過程から生み出されたこの記録には、いまだ書かれたことのない人間の真実があります。胸がつまり、時に息苦しくなるほどの切迫感を持った数々の惜別のさまが遺族の日記や聞き取りから溢れてきます。専門用語や理論はその豊富な実例のなかから自然に浮かびあがるように記されていて、この分野の門外漢でも全く違和感を感じずに読むことができます。私はこの本を読んで、心理学者の河合隼雄氏のおっしゃるところの「物語」という意味が納得できた気がします。私たちが愛する家族を失った時に必要なのは、事故の事実関係よりもむしろ、「どうして私の○○が死ななければいけなかったのか」という意味を自分で納得できるための物語なのでしょう。この本には、長期にわたるその切実な「物語づくり」の実例が豊富に記されています。
ただ、ルポルタージュではないため、日航など事故の加害者(?)側の姿は遺族の目を通したものばかりですから、その点は読者にも注意が必要かも知れません。