インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

昭和・遠い日 近いひと (文春文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
Amazon.co.jpで確認
人間の生き死にを描く作家<生来の業>を垣間見た思い ★★★★★
昭和十三年に二十六歳で戦死する一高東大卒のインテリ兵士太田慶一伍長は、妻宛に「父母の云ひつけをよく守り、必ず不和なき様に努むべし。」と記し、子供が「いかなる職業につくとも学問と芸術を愛する事を忘れざる様訓育すべし。」との遺書を出征時に残していたという。

手にした文庫本(『昭和・遠い日 近いひと』)を読み進むうちに、各編主人公の無念さと妻子家族が襲われたであろう喪失感、寂寥感の深さに暗然となった。それでも、遺された者たちは生きてゆかねばならなかった。貧しさとしがらみの昭和が著者澤地久枝を捉えて放さない。

アッツ島守備隊矢敷喜作大尉の手紙、軍事郵便葉書を読むと、帝国最北部占領地防備という重大任務に就いた悲愴な覚悟が伝わって来ると同時に、内地の家族を思い、心配させたくないとの子煩悩な父親の「至極壮健」という強がりと、「何でもよいから手紙せよ」との便りを心待ちにする本音部分が胸に迫る。玉砕の島からこの父は遂に還らなかった。

あとがきに記されたとおり、著者は「忘れられてはならない人びとの人生を精一杯書いた」。澤地久枝版『忘れられた日本人』だと喩えると誤解されようが、著者の関心とその情熱が、俳人鈴木しづ子や農婦木村センのようにほとんど無名のまま亡くなった人々に向けられている事実に、民俗学者以上に伊達や酔狂で人間の生き死にを描く作家<生来の業>を垣間見た思いがする。

松川事件裁判に関わった廣津和郎にしても、本書を読むまでは斯様に愛憎が複雑に入り組んだ私生活を送った人とは知らなかった。非業に倒れた反戦川柳歌人鶴彬の名前を耳にする機会が増えた裏側に、忘却の淵で踏み止まらせた後進同好の功労者がいた事実を初めて知った。その意味で、本書を『忘れられない、忘れてはいけない日本人』と称える気持ちに十分な根拠がある。