集合写真の中に見る気迫
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一枚の集合写真からその時代を描くという手法は「追跡―一枚の幕末写真」(1984年)で著者はすでに用いているが、前回は誰が写っているのか分からない写真であったのに対して、今回は写された年月日、時間を始めとして、被写体の人物の名前、経歴、その後がかなり詳しくわかっている写真を採り上げた。
著者はこの「エジプト写真」を見てからご子孫に会ったり、図書館や資料館を訪ねて情報を集めていたが、「池田一行三十四人」の中の名倉予何人(なくらあなと)に関するものだけが漠然としていた。この本の主人公とした一番資料豊富な三宅復一(みやけまたいち)が維新後もつき合っていたという名倉という人物に著者は引っかかっていたのだが、99%偶然から彼が書いた旅行記を見つける。その瞬間、著者はこのドキュメントを「本当に書こう」と決心した。
「池田一行三十四人」に関する資料は確かに豊富なのだが、文章の中に感情を現わしておらず、このような状態で何を感じていたかを推定するにとどまっていたが、名倉の旅行記は情景描写の細やかさとともに時に感情をムキ出しにして書かれており、また何物にも好奇心を抱き、抱いたとみるや、直ちに言葉もわからぬ相手に向かって話しかけるというその旺盛な実行力は「三十四人」の中で名倉が随一だった。
今は無き武士たちの当時の純粋な使命感や未来へ鋭い眼をギラギラ輝かしている姿が描写されていて、著者一級の作品に仕上がっている。随行した他の人々や当時のフランスの様子を表す写真も多く掲載されていて読んでいて面白い。
スフィンクスに出会った侍たち
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時は幕末、混沌とした時代。パリへ向かった侍たちがいた。
「池田使節団一行」で、本書はそれに随行した三宅復一を主人公にした旅物語である。彼らは旅先で様々な出来事に遭遇する。旅自体が壮大なのだが、やはり注目なのは、スフィンクスの前で撮影された侍たちの記念写真である。
彼らいわく「巨大首塚」。ピラミッドは「三角山」である。大胆にもスフィンクスによじ登っている者もいる。刀を差して陣笠を被った彼らは無邪気である。
撮影されたのは元治元年で、日本では「池田屋騒動」「佐久間象山暗殺」「禁門の変」などがあった。
今のように通信手段が発達していない時代である。そんなことは知らずに旅先でのハプニングに右往左往していたに違いない。